2600hits記念


[My…]



沢山の花が咲き乱れる中、ちいさな女の子が花に囲まれて座っていました。


「『紗乃』」


黒い青年が声をかけると、少女は勢い良く振り向きました。とても嬉しそうでした。


「うさぎさんっ!」


少女は駆け寄って、青年の腕の中にすっぽりと入ってしまいました。そこは少女の定位置でした。

青年が座り、少女が青年の膝の上に座ります。
これが彼女たちの日常。そうやって触れ合いながらお話しが始まります。


「今日はなにを話してくれるの?」

「そうだね、暖かいお話しをしようか」


青年は少女の望む全てを叶えました。彼は少女の全てになりつつありました。
この時はまだ、全てでは無かったのです。





いつしか時は流れ、少女はあどけなさが微かに残る女性となりました。その隣りにはあの青年が寄り添います。


「クイーン、今日は楽しいお話しをしよう」

「……………」


あの頃と何一つ変わらない状況の中、一つだけ変わった事があります。
それは、かつて少女だったあの子から笑顔が消えたこと。
青年は知らず知らずの内に彼女の笑顔を奪っていきました。
何が悪くて、こうなったのか青年は全くわかりませんでした。

気付けば一人になり、彼女の傍らに立っているだけになってしまいました。
彼の変わらない定位置なのに、周りが変わりました。


「ねぇ……、僕の何が悪かったのかなあ。…クイーン…、『紗乃』…僕のアリス……君だけだよ」


青年は彼女の長い美しい髪を一房取り、口許に運びます。愛しいものを扱う様な手付きでした。


彼女が望むものを与え、彼が望んだ彼女になったはずなのに、彼女たちは安らかな日々を送れないでいます。
どこで歯車が狂い、世界が壊れ始めたのか、彼女たちにもわからないこと。


これは、とても悲しい哀しいお話。
新たなアリスが終止符を打つまでの。












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