まず手を繋ぐ。そして星空の下で見つめあって、想いを伝える。実に素敵だと思わないか?いつか好きなやつが出来て、告白するときはこれくらいやりたいよな、なんて思っていた。まあ実際に恋をしてみて思ったのは、そんな恥ずかしいこと出来るわけねーってことだった。こうやって2人で寮への帰り道を歩いてるだけで嬉しくて舞い上がって、でも緊張して。今だって手に汗がじんわり滲んでいるのがわかる。よくも昔の俺はあんな嫌な意味で鳥肌の立つようなシチュエーションを考えたよなあ。











「……犬飼くん?」



「え、ああ、どうした?」





自分の世界に入っているうちに名字が話しかけてくれていたらしい。せっかく2人きりの貴重な時間なのに何をやっているんだ俺は。







「……なんでもない……」



「そ、そうか?」




「……」




「……」








沈黙が続いてしまう。名字は確かに何か言いたげな目をしていたのに、ちらりと俺を見たあとすぐに俯いてしまった。何か話さなくては、なんて焦る程に頭の中は真っ白になっていく。何か、何か。







「あ……えっと、やっぱ何か言いたいことあったんじゃ」







「……」





俺がそういうと名字は恨めしそうに俺を見た。身長差も相まって、そんな顔も可愛いんだがやっぱり俺的には笑った顔が見たい、なんて俺は何を考えているんだ。2人の間に流れる空気とは裏腹なことを考えている俺に名字は迷いがちにぽつり、と呟いた。












「……犬飼くん、私と一緒にいても楽しくなさそうだよね、」





「……え?」








予期もしない言葉に間抜けな声が口をつく。一緒にいて楽しくない?そんなことあるわけがないのに。出来ることなら俺の脳みそを開いてどれだけ名字のことを考えているのか見せてやりたいくらいだ。いや、さすがに気持ち悪がられそうだから出来たとしてもやらないけど。じゃなくて。







「私といるとき、いつも難しい顔してるし、口数少ないし……一緒にいたくないなら、言ってくれれば良いのに」





俯いたままそう言うから俺には表情がわからなくて、でも言い終わるにつれて声がくぐもっていくのがわかった。……泣いてる、のか?








「ごめ、んね。もう一緒に帰ろうかなんて言わないから……っ」











そう言って、俺の横から立ち去っていこうとする彼女に思考が追い付かなくて立ち尽くす。が、次の瞬間ちらりと見えた頬に伝っていた涙に我にかえった。既に駆け足に変わっていた名字の後を追いかける。伊達に弓道部にいるわけじゃない、悪いが女に負ける気もない。すぐに名字に追い付いて腕を掴んで引き止める。



「待て……っ、」




「やっ……離して、」






いきなり腕を掴んだからか、バランスを崩しそうになった名字の体を支えた。拒絶の言葉は思ったよりも弱々しくて。








「……こんなことされたら、また、期待しちゃうじゃん……!」









震える言葉と肩に、俺の胸が大きく鼓動を打つのがわかった。これは、もしかして、もしかするのだろうか。まだ、舞い上がってはいけない。勘違いだったときの衝撃といったらもう目も向けられないだろう。しかし完全に俺の心臓は期待の音をあげていた。








「……それ、どういう意味か聞いても良いか?」





「……そのまんま、」





「そうか、それじゃあ、今度は俺の話を聞いてくれ」




そういうと支えていた手を離して、名字に無理矢理こちらを向かせた。目元は涙で潤んでいて、思わずごくりと唾を飲む。水分を急激に失ったような口を開いて言葉を紡ぐ。






「好き、だ」


















走って服は乱れていたし、名字の顔はくしゃくしゃだったし、未だに手から汗は止まらないしで、全然ロマンチックでもなんでもなかったけれど俺にはこれくらいが丁度良いのかもしれない。俺達の頭上で一等星が瞬いた、ような気がした。



























ロマンチストの夢












20110817



■あとがき
どうもこんにちは、あざれあと申します。今回は素敵な企画に参加させていただきましてありがとうございます。
へたれで不器用でがむしゃらな犬飼くんが好きです。その結果こんな話になりました。私の書く犬飼くんはなんだか捏造気味で申し訳ないですが……。
ここまで読んで頂きありがとうございました。

あざれあ


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