ちょっとぼーっとしていたら、先輩に声をかけられた。
うわぁ、会っちゃったよ…という苦手なタイプ。
この人は入学当初から何かと声をかけてくるのだが、これがまたしつこい。今も私が適当な反応しかしないのに気づいていないのだろうか、まぁよく喋る。
早いとこ去りたい。ぼーっとするんじゃなかった。いやぁ参ったどうしよう。
「よっ」
「ん?あ、犬飼」
そんなことばかり考えていたから、後ろに犬飼が来ていたのに気がつかなかった。
「次、移動教室だろ。遅れんぞ」
「あぁ、うん」
私と先輩の顔を素早く交互に見て状況を察したのか、そう言ってくれた。
犬飼にしか聞こえないように「ありがとう」と言って一緒に歩き出そうとしたら、おもむろに手を絡めとられて、それをちょっと掲げて、
「すんません、こいつ俺のなんで」
「は?」
「ほら行くぞ」
「うわ、ちょっと…」
一言そう言い放ったと思ったら、ぽかんとしてる私のことなんかおかまいなしにどんどん歩いて行くから、ただついていくしかなかった。
「いぬか、い」
しばらく歩いたところで声をかけようとして、言葉につまった。
いつも飄々としてる犬飼が耳まで赤くして手で口元を隠すように覆ってたりするから。
犬飼も頬を染めたりするんだ。ではなく。つまりさっきの言葉はそういう意味だったってこと?
繋がれた手から熱が伝わる。いつもみたいに「冗談に決まってんだろ」って笑ってくれた方がよかったなぁ。
そんなふうに見たことなんてなかったのに、これではもう、
無意識じゃいられない
明日からどんな顔して会えばいいだろう。
■あとがき(あればどうぞ)
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただければ幸いです◎
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