No.1 by 奏
H.29年3月「期末テスト」
テスト終了5分前。寝ているやつもちらほらいる中で、俺は最後までケアレスミスがないか見直しを続けていた。今日はテストの最終日で、この時間が最後のテストの時間。数式の並ぶ解答用紙を見て、これでようやくテストも終わりか、と息をつく。
時計が11時を指して、テスト終了のチャイムが鳴った。そこまで、という先生の号令と共に、解答用紙が回収されていく。とりあえず、帰ったらテストでわからなかった問題の復習を……と計画を立てているところに、誰かが背中をつついてくる。こんなことをするのは1人しかいない。俺はため息をつきながら、振り向く。

「何の用だ、高橋」

高い位置で結ばれたポニーテールに、アーモンド型の瞳。日焼けした肌は、こいつの所属するテニス部のトレードマークのようなものだ。運動部所属で明るい性格のこいつと、勉強ばかりしているいわゆるガリ勉タイプの俺は、本来ならば交わるはずのない2人だったはずだ。
高島と高橋、名簿が前後だった俺たちはタイプは全然違うのに、話すようになった。といっても、俺から話しかけることはほとんどなく、高橋が一方的に話しているのが常だった。

「テスト終わったから、カラオケ行かない?」
「……悪いけど、帰って復習するから」
「そう言わずにさ!高島がいると楽しいんだよー」

高橋と話すのは苦痛ではなかったから、俺はそれを拒否することはなかった。ただ、高橋の方はつまらないだろうな、といつも思っていた。あいつが普段仲よくしているタイプといえば、同じく明るくて活発な、クラスの中心にいるようなタイプ。俺は、教室の隅の方で勉強してる地味なタイプ。学年の始めに生まれた小さな縁が今でも続いていることが、不思議で仕方なかった。
そして高橋は、たまにこうやって俺を遊びに誘うのだ。2人で遊びに行くのではなく、高橋のグループに俺が入れてもらう形だ。さらに不思議なのは、そのグループのやつらも、俺を邪険にしないことだった。あるべき形で青春を謳歌している彼、彼女たちが、勉強が学生の本文だと言う俺を受け入れるのが意外だった。

「もう期末が終わったんだからさ、1日くらい勉強休んでも平気だって!あたしたちとカラオケに行こう!お願い!」

ついでに言うと、俺は高橋の誘いを断ったことはない。いつも1度は「勉強するから」と言うのだが、引き下がらずに誘ってくる高橋に根負けしてついていくのがいつものパターンだった。本当に嫌なら、何度誘われてもついていきはしないのだが、あいつとの時間は俺にとっての楽しみなのだ。
俺はあいつが必死に俺を誘ってくるたびに、喜びを覚えているのだ。そうして同時に感謝している。あいつは俺が疲れているのがわかるのかと思うようなタイミングで、俺を気分転換させるために、外へ連れ出すのだ。

「仕方ないな、今日だけだぞ」
「やったあ!」

そして俺は何よりも、誘いを受けた瞬間にあいつが見せる、弾けるような笑顔が好きなのだ。


■後書き
お題である「期末テスト」をうまく使えませんでした……。でも楽しく書けたのでまあいっか、と思っておきます。


BACK