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 ―――あれでもない、これでもない。
 仗助に連れて行かれる先々で、ユウリは、子どものころ遊んだ着せ替え人形の気持ちを味わった。
(あ…脚がスースーする…)
 仗助の選ぶ服は、どれもこれも、良くも悪くもイマドキで、なんというか、布地が極端に少なかったりして、ユウリがきっと一生着ることはないだろうと思っていたようなものばかりだった。
 ちなみに今試着しているのは、大柄の花がプリントされたミニスカートのワンピース。夏らしい爽やかな白地が眩しい。ユウリは、こんなの無理だよ!!と必死で拒否したが、ニコニコ笑う仗助に「いーからいーから」と試着室に押し込められたのだった。
 ドキドキしながら試着室のカーテンを開けると、「あッ!!」こちらをふり返った仗助が目を輝かせた。

「良い!スゲー良いッス!」
「ほ、ほんと…?」
「マジですって! やっぱ、生脚ッスね!! グレートっス!!」

 試着室の前で、力強く仗助が言う。ユウリはかあっと顔を赤らめ、「もうっ!」すぐにカーテンを閉めた。
 こんなに肌を露出したことなど、今までなかった。相手が仗助だからまだ良いものの、こんな格好、露伴の前ではとてもできそうもない。ユウリは急いでもとの服に着替えた。


 それからも、仗助とのショッピングは続いた。服選びの斬新さから、もしかしたら、からかわれているのかもと思ったが、仗助はユウリの服について真剣に考えてくれているようだった。仗助は、ユウリに何を着せても似合う似合うと褒めてくれたが、仗助の判断基準は意外に高めで、こだわりもあるらしかった。
(あんまし下品なヤツだと、露伴怒りそうだしなァ〜)
 結局、仗助がコレと決めたのは、胸元の大きく開いたドルマンスリーブのワンピースだった。これなら隠せるところは隠せるし、ほどほどに露出もできる。ユウリも、これならなんとか…と俯きがちに言っていた。

「よし、じゃあ、これに決定ッスね!」

 そう言ってレジに向かう仗助を、ユウリは慌てて止めた。

「ちょ、ちょっと、待って!仗助くんっ、これくらい自分で払うからっ!」

 露伴のときとは違い、仗助の選んだ洋服の価格はどれもリーズナブルだ。自分の洋服を選んでくれた仗助に、というか高校生に金を出させるわけにはいかない。
 彼氏面でもしたかったのだろうか、ええー、と唇を尖らせる仗助を押し退けて、ユウリは財布を開くのだった。









「仗助くん、あの、よかったらお茶でもしていかない?」

 今日のお礼に奢るよ、という、ユウリの提案に乗り、仗助はカフェ、ドゥ・マゴにバイクを走らせた。
 カフェのオープンテラスは今日も賑わっていたが、その中にふと、見知った顔を見つけ、仗助は「あ」と声を上げた。

「由花子じゃあねーか」
「………」

 テラスで文庫本を読んでいた、髪の長い女の子。とても綺麗な子だ。
(…仗助くんの知り合い?)
 そう訊ねたかったが、声を掛けられた彼女が、仗助の方を一瞥しただけで、一言も話さず、また文庫本に視線を落としたので、なんだか声を掛けるのが憚られた。
 しかし、そんな彼女に構わず、仗助はそのテーブルに腰を落ち着けた。ユウリは驚きつつ、しかしどうすることもできないので、仗助の隣の椅子に腰を下ろした。それから適当なコーヒーをオーダーする。
 すると、
「チッ」信じられないことに、彼女の可愛らしい口から舌打ちが聞こえて、ユウリは思わずそちらを見た。
 由花子と呼ばれた彼女は、仗助を睨みつけながら「これから康一くんと待ち合わせなの、邪魔しないで」というようなことを言った。康一、というのは、きっと彼氏なのだろう。

 ピリピリした雰囲気の由花子に、完全に呑まれそうになっているユウリ。心なしか、艶めく黒髪もざわざわと逆立っているようにも見える。

「コイツ、俺のクラスメイトなんスよ」

 運ばれてきたコーヒーを飲みながら、仗助が言う。ぎらついた視線がこちらを向いたので、ユウリは咄嗟に、へらっとした笑みを浮かべた。
 落ち着きを取り戻したのか、由花子は、ふーん、とユウリの顔を見やりながら、

「アナタ、女の趣味は悪くないのね」

 と、仗助に向けて言った。

「ユウリさんな、露伴とこの担当さんなんだぜ」
「へぇ」

 ストローを咥える赤い唇。若さという武器を差し引いても、由花子のもつ可憐さはまぶしいばかりだ。こんな子が周りにいるのに、自分を綺麗だと褒めてくれた仗助はある意味凄い、とユウリは思った。

 仗助はといえば、由花子と並んでみても見劣りしないユウリに、すっかり満足していた。こんなに綺麗になったユウリを前にすれば、あの露伴だってきっとグラッとくるだろう。

(へへ、楽しみだぜッ)

 頬杖をつき、ユウリを眺めていると、「なにヘラヘラしてんのよ」と、呆れたように由花子が言った。




2012.08.28
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