05.望む(ディエゴ/猛獣の飼い方)

 一糸纏わぬ姿のままのディエゴがベッドに転がっている。
 この男は、味なんか良くわかりもしないくせに、わざわざ高いブランデーを選んで飲む。彼にできる数少ない、私への嫌がらせの一種だ。

 酒をいちいちグラスに注ぐのが面倒になったのか、瓶のまま豪快にルイを煽って、ディエゴは言う。

「俺はいつかマンハッタン島を手に入れる」
「ふぅん。マンハッタンを征服する前に、まずは服着たら?」

 ドレッサーに向かって、先ほどのセックスですっかり落ちてしまった口紅を引き直した。背を向けているので、ディエゴの表情は見えない。
「こっちに来いよ。ビッチ」この男、ずいぶんと生意気な口をきく。

「あなたが来るのよ」
「この………」

 言葉とは裏腹に、ディエゴはおとなしくベッドを降り、こちらへ歩いてきた。鏡に全裸のディエゴが映る。
 むすっと唇を引きしぼって、けれど甘えたような態度で、首元に腕を絡めてくる。後頭部にディエゴの胸板が押しつけられる。熱く脈打って、行為の後だというのにベビーパウダーのような良い香りがした。

「なァ、わかってるのか。俺がマンハッタンを手に入れたら、立場が逆転するんだぜ」
「へえ。そもそも私みたいなパトロンは必要なくなるわね」
「お前を征服してやると言ってるんだ」

 ガブ、と。音を立てて肩に噛み付かれた。
 普段なら、傷を付けられたら倍にして返してやるところだが、今は夢みたいな絵空事を語る彼が可愛くて、思わず笑ってしまった。

「ねえディエゴ」
「あん?」
「あなた、マンハッタンが欲しいの、それとも私が欲しいの」

 そう言いながら振り向いて、ディエゴの唇を指でなぞった。むすばれた唇は悔しそうに震えている。

「ディエゴ、答えなさい」

 言葉はない。
 噛み付くようなキスが答えだった。




2019.05.14

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