06.願う(わんこジョルノ)

 夜空の下のバルコニー。
 ジョルノはお気に入りのクッションを抱いてちょこんと座っている。彼はもうずいぶん前から星空を眺めている。首が痛くないのだろうか。

「おまたせ」

 2人分の飲み物を持ってバルコニーに出る。ジョルノにはホットココア。ノンシュガーのカフェオレは自分用だ。

 ジョルノの隣に腰を下ろし、ふたつのマグカップを木製のローテーブルに置いた。

「ありがとうございます」

 あんなに食い入るように空を眺めていたのに、ジョルノは秒速で抱きついてくる。

「きゃっ!」

 タックルするような勢いで抱きつかれ、咄嗟に受け止めきれず、押し倒されるような形になってしまう。

「ん〜〜〜」
「あっ、ちょっと、ジョルノ!」

 調子づいたジョルノはちゅっ、ちゅっ、と唇や首元にキスを振らせるが、「ジョルノ、星、見なくていいの」と本来の目的を思い出させてやると、名残惜しそうに唇を離して仰向けになった。

 ふたりそろって仰向けに寝転んで、満点の星空を見上げる。
 今日は何十年に1度というナントカ流星群の日だとかで、数日前からニュースでしきりに報道されていた。
 星なんて滅多に見ないし、そもそも惑星の名前すらうろ覚えだけれど、ミーハーな私たちはその何十年に1度というお祭り騒ぎに便乗してみることにしたのだ。

「流星群、まだですかね」
「7時くらいからって言ってたよ。もうすぐだと思う」

 ジョルノが肩のあたりに頭を押し付けてくる。甘えん坊なこの愛犬は、私の体温をいつも求めている。
 きれいな髪。
 透き通るような金髪を見つめていると、ジョルノがふいに「あっ」と声を上げた。

「流れ星! いま見えました!」
「え、ホント」
「スゴい! 僕、初めて見ました!」

 ジョルノは大はしゃぎで夜空に手を伸ばしている。彼の髪を撫でながら、なにをお願いしたの、と訊ねると、ジョルノは上目遣いでこちらを見上げ、

「明日もたくさんキスできますようにって」

 甘えた声でそう言って、触れるだけのキスをした。
 思いのほか謙虚な願い事だった。ジョルノのことだから、私と一生くっついていられますように、くらい言うと思った。

「…そんなんでいいの?」

 あっさり叶っちゃう…というか、自力で叶えられるのでは。

「流星群全部にこうお願いすれば、毎日たくさんキスできるでしょ。僕は堅実な男なんです」
「堅実って」

 思わず吹き出してしまった。堅実な男ならまず、流星群に願い事なんかしない。

 だけど、いいだろう。隣にいるのもまた、堅実な女だ。可愛い愛犬のちいさな願い事くらい、叶えてあげようじゃないか。

「僕の願い事、叶いますかね」
「叶うよ。今から叶えてあげる」
「えっ」

 ジョルノの首のうしろを掴んだ。顔をこちらに向けさせ、そっと唇を重ねた。
 ―――瞬間、ジョルノが身をひるがえして覆いかぶさってくる。

「…ん、」
「あなたのそういうところ、大好きです」

 結局、私たちは流星群をほとんど見ることができなかった。
 無数の流れ星が行き交う空の下、私たちはひたすらに唇を重ね合った。




2019.05.12

×