22.躊躇う(フーゴ)

「んッ……」

 キスの合間に、フーゴの唇から色っぽい声が漏れた。
 肌を撫でる唇をゆっくりと下降させ、ネクタイの巻かれた首筋を辿り、デコルテに到達する。その薄い肌を吸おうとして、ふと動きを止めた。
 彼の鎖骨に唇を寄せたまま、問いかける。

「……ホントにするの?」
「どうして止めるんですか」
「だって……」

 視線がかち合って、フーゴは私の髪を撫でた。
 ……ああ、気が重い。彼自身の頼みごととはいえ、キスマークを付けて欲しいだなんてそんなこと、セックスを覚えたての中坊じゃああるまいし。

「別にいいじゃあないですか。あなたの所有物だという証が欲しいんです。あなたに付けるんじゃあなくて僕に付けるだけですよ」
「でも……キスマークなんて付けて、もしブチャラティたちに見られたら、あのオンナ嫉妬深いんだなとかマーキングするタイプなんだなとか思われちゃうじゃない」
「ブチャラティはそんなこと言いませんよ。……そもそも、」

 ―――いま他の男の人こと、関係あります?

 あっやべっ―――。咄嗟に思った。
 フーゴがこういう言い方をするとき、大抵めんどくさいことになる。

 その予想通り、フーゴは唇をツンと尖らせてこちらを見下ろしている。ああもうそんな嫉妬したような、いじけたような目で私を見ないで。たまらない気持ちになってしまう。

 けれどこれ以上意地悪したらもっと面倒なことになる。私は自分の平穏のために、もう一度フーゴの滑らかな鎖骨に唇を寄せた。
 そのまま強く吸い上げると、フーゴは「んッ」と熱い溜め息を溢した。

「……これで良い? 満足した?」
「いいえ。首やお腹にもお願いします。ココだけじゃあ自分で見えませんから」
「もォ〜〜〜」




終 2019.06.10

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