20.思い出す(わんこジョルノ)

 この世界では、犬という種族は仔犬の頃、四足歩行のケモノの姿をしている。成犬になるにつれて、人間と同じ肉体へと進化するのだ。犬の姿が残るのは耳と尻尾だけ。


 受け取った郵便物の包みをバリバリ破って、中身を取り出すと、自分の口から思わず「きゃ〜!」と黄色い声が出た。

「どうしたんです?」

 その声を聞きつけて、ベランダのプランターに水やりをしていたジョルノが颯爽と駆けつけた。ソファに飛び乗って、流れるように私の首に腕を絡める。

「……子どものころの僕ですか」
「そう! 頼んでたアルバムがやっと届いたの」
「わざわざ作ったんですか?」
「うん。友達が作っててね、私も欲しくなっちゃって」

 私が手にしているのは、仔犬時代のジョルノのアルバムだ。
 そこそこ高い金額を支払ってオーダーした、A4版のちょっとした写真集である。40ページを超える冊子の中身は全て、仔犬時代のジョルノ。この時代のジョルノは誇張抜きで天使のような可愛さだ。

「きゃ〜っ、見て! ジョルノってば、ピクニックバスケットで寝ちゃってるの! ねえ覚えてる? この日一緒に公園に出掛けてピクニックしたのよ」
「覚えてますよ。たくさんフリスビー投げてもらって、すごく嬉しかった」
「ホント? じゃあこれは覚えてる? 初めて一緒に海に行ったときの写真よ。この日初めてジョルノが犬かきしたの」
「……覚えてますよ。あなたが沖に流されるんじゃあないかと心配で、めちゃくちゃ必死で泳いだんです」
「え? そうだったの?」
「そうですよ。あの時は言葉も話せなかったから、もどかしかった」

 そう言ってジョルノは私の手からアルバムを奪い取り、自分の後ろに隠してしまった。嫉妬深いこの愛犬は、私が自分以外に夢中になるのが気に入らない。そしてどうやらそれは、その対象が過去の自分であっても同じらしい。

「昔の僕も良いけど、今の僕も可愛がってください」

 そんなことを言って膝に乗ってくる彼の熱は、今も昔も変わらない。
 仕方ないなぁ、と小さく笑って、薔薇色の唇にキスをした。



終 2019.06.09

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