01.焦がれる(リゾット)

 仕事で忙しい恋人は、いつも私のことは二の次だ。
 この前勇気を出してあなたに会えなくて寂しい、とかわいこぶって言ってみたら、なんとリゾットは拾ってきた仔犬を私にくれた。
 ―――そういうことじゃねえよ、と思ったが、それでも仔犬は可愛いので名前をつけて大事に世話をしている。

 一応今夜もリゾットは私の家に来ると言っていたが、時刻はもうすぐ23時半だ。期待するだけ無駄かもしれない。
 残念な気持ちもあったけれど、きゅんきゅんと足元にすり寄ってくる仔犬のおかげで、寂しさは和らいだ。

「よしよし、お前は可愛いねー」

 頭と背中を撫でてやると、仔犬は大喜びで腹を上にした。

「うりゃうりゃうりゃ」

 ワシワシと腹を撫でまわす。すると仔犬は尻尾をぶんぶん振りながら私の顔じゅうを舐めてきた。

「きゃー! あはははっ、くすぐったい!」

 しまいには仔犬に押し倒されてしまう。わんわん、と鳴き声にまじって、「楽しそうだな」と低い声がした。

 ―――えっ、と勢いよく起き上がる。仔犬がキャンとひと鳴きして床に飛びのいた。

「リゾット!」
「俺より犬が好きか」
「なに言ってるのよ!」
「俺が来ても気づかなかっただろう」

 ―――いやいやいや、拗ねたいのはこっちの方だ。
 散々待たされて、そもそも会うのだって久しぶりなのに。

「…会いたかったわよ、誰よりもあなたに」
「それが聞きたかった」

 エゴイストな男。私だって、聞きたい言葉もして欲しいことも沢山あるのに。

「リゾット、私、」
「もういい」

 冷静に、けれど熱く、リゾットが私の唇をふさぐ。まだ少しわだかまっていた怒りは、キスとともに唇に溶けていく。
 彼の熱に、唇に、この身体に、私はくるおしいほど焦がれていたのだ。



2019.05.06

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