13.慰める(ペッシ)

「オイオイ何度言ったらわかるンだッ! ペッシペッシペッシよォ〜〜〜!」
「ヒィィィィ、ゴメンよォ兄貴ィィ〜ッ!」

 ちょうどアジトに戻ると、聞き慣れた声が耳に飛び込んでくる。プロシュートとペッシのコンビだ。彼らもひと仕事終えて戻ってきたところらしいが、ペッシがまた何かミスをして、プロシュートに滔々と説教されていた。

 そんな場面に踏み込んで行くのも気が引けたので、いったん建物を出て自販機でコーヒーを買い、それを飲み干してからまた戻った。

 部屋のソファではペッシがしょんぼりと膝を抱えていた。プロシュートは窓際で煙草を吸っている。

 ペッシの隣に腰を下ろして、クラッチバッグから煙草を取り出す。銘柄はプロシュートと同じマルボロ。
 パッケージから煙草を一本抜き取って、口に咥えると、ペッシがあわてて火をつけてくれた。ジッポライター特有のオイルの匂いがした。

「ありがと、ペッシ」

 よしよしと広い額を撫でてやると、ペッシは「ネエさァん」と泣きそうな声で言った。チームのメンバーは私とプロシュートを「飴と鞭」と比喩しているが、なかなか的を射ていると思う。
 そんな彼に、先ほどお気に入りのカフェでテイクアウトしたスコーンの包みを差し出す。

「ハイこれ、食べて良いよ」
「いっ…イイんですかい!? このスコーンっ、ネエさんの好きなヤツじゃあ…」
「うん、だからペッシにあげる。プロシュートにしばかれてお腹すいたでしょ」
「うッ、ウゥ〜ッ…ネエさァんッ」

 ペッシは包みをバリバリとやぶって、紅茶の練り込まれたスコーンを口いっぱいに頬張った。煙草を揉み消したプロシュートが呆れ顔で近づいて来る。

「オイお前、ペッシに甘すぎじゃあねーか」
「それはプロシュートの方でしょ」

 ペッシは驚いた顔をして私たちを見る。何だかんだ言いつつプロシュートはペッシのことを可愛がっているのだ。…その可愛がり方には少し問題があるけれど。
 私は自販機で買ったドリンクをテーブルに置いて、ペッシに言った。

「はいペッシ、ココアとカフェオレどっちがいい」
「こ、ココア…」
「おい。俺の分は」
「なに言ってんの。あるのは可愛いペッシの分だけよ」
「俺は可愛くねェってか!」
「当たり前でしょ、図々しいわねッ! …ちょっと待ってヤメて、近い近い近い!! プロシュートあなたねッ、そうやって何でも顔で解決しようとするのヤメなさいよ!!」
「あ、兄貴ィィ…」

 弱々しいペッシの声がどこか遠くに聞こえた。



終 2019.05.29

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