炎天下と言える夏の日に降り注ぐ日差しは酷く暴力的で、ジリジリと肌を焦がす紫外線は皮膚を攻撃するだけでは飽き足らない様に体力を奪っていく。暑い暑いと言っていた数十分前には案外余裕があったのだと思える程、今の自分達は口数が少ない。
この屋上は昼休みには俺を含めたサッカー部数名が下らない話をしながら昼食をとるのがお馴染みの光景なのだが、今は昼休みをとっくに過ぎた授業中…つまり頭の固い真面目な鬼道君や、そんな鬼道君の姿を観察するのに必死な佐久間は此処には居ない。居るのは俺と、珍しく授業を抜けて先程やってきた源田の2人きりである。
照りつける太陽から逃げる様に日陰に回って、冷たい壁に体をもたれさせて居た俺の姿を見つけた源田が、自然に隣に腰を下ろして飲むかと差し出したのはペットボトルの炭酸飲料。昼に買って飲んでいた紙パックジュースはとうの昔に空となっていたので何も言わずに受け取ると、くそ暑い気温と中の水分の冷たさのギャップから生まれた水が俺の手を濡らした。そんな事は気にせずにキャップを開けてゴクリと喉を潤せば、幾分か暑さが和らいだ、気がする。あくまでも気分だけ。
「……珍しいな」
「不動こそ、いつもは冷房の効いた準備室とか保健室に居るのにな」
「あ゙ー…どっちも先客有り」
「そうか」
俺の主語の抜けた言葉に的確な返答を出来るのはこいつか佐久間くらいだろう。手の甲で額を拭いながら寝転ぶ態勢になろうとする俺を見れば、足を崩して自分の太股を軽く叩きながら枕として提供した。…この暑さで一瞬忘れかけていたが、世間一般で言う俺の゙恋人゙であるこいつは空気を読めるだけではなく、さり気なく俺を甘やかす。
一々誰が何をどうしたとか、こうしたいとか、面倒臭い説明も文法も気にしなくても通じる人間は素晴らしく楽であり、貴重だ。しかし源田は楽なんてレベルでは無いほどの良い立ち位置をキープし続けており、こんな風に交わす言葉が少なくても落ち着いて身を委ねられるのは今の所こいつだけなのが事実だ。
「太股あちぃ」
「それは仕方ないだろう、さっきまでお前を探して歩き回ってたんだからな」
「…何、お前俺を探す為だけに授業サボったの?」
「最近部活帰りにも暑いからって直ぐ帰ってたからな、ゆっくり話す機会が無かっただろう」
「ふぅん」
茶化す様に尋ねた言葉に返って来たのは案外真面目な内容で、よくわからない気恥ずかしさを誤魔化す様に寝返りをうつ。真面目なこいつが俺の為に授業をサボって捜し回ったんだと考えながら片耳を熱い太股に押し付けると、体から小さく聞こえる血の通っている音。いつも自分より大人びていて、たまに何を考えているかわからない行動に出る源田も、人間なんだなぁと当たり前な事をぼんやりと思えば、少し可笑しくなって頬が緩んだ。
「暑さにやられたかなぁ」
「大丈夫か、熱中症か?」
「違ぇよバーカ」
「でも今暑さにやられたと…」
「あぁ、暑くて頭やられちまったみてぇなんだよ。だからさ、どうせ熱くなんならこのままヤろうぜ、ダーリン」
心配そうに覗き込んできた顔を見上げて、挑発する様に太股に唇を落とせば頭上から喉を鳴らす音がした。久し振りの二人きりに、程よく涼しくて死角の場所、雲一つ無い青空にどうしようもない背徳感と欲情を掻き立てられた俺と、自分に素直なこいつが居ればまさに完璧ってこった。
思考回路を略奪せよ
(っ、は、熱い…)
(うっせ、俺の、がっ、あちぃよ)