※二期






(あ、また。)


ざぁざぁと、耳障りな雨の中。先を歩く女性に目を奪われ足が止まる。いや正確には彼女に惹かれたわけではない。彼女の持つ傘が、自分の目に留まったのだ。
最近なんだかおかしい。何がと言われると、自分自身が。両親の仕事の都合で雷門に転校してから、何やら胸が疼いて仕方がない。頭の中に霧が掛かったようで、気分が悪い。
別に学校生活に不安や不満はない。前の学校で所属していた軽音部に入って、同じ学年の親しい友人も出来て。むしろ順風満帆、上手く行きすぎて怖いくらいだ。いや、もしかしたらこのせいだろうか?上手く行きすぎて怖い、なんて。

(………いや、)

それとはまた違うと、自らそれを否定する。
この疼きには特定の条件があるのだ。両親の温かな手、地べたを転がる球体、そして───視界に映る、桃色。
桃色など、特別好きなわけではない。女らしい女々しい色、男の自分には全く縁のないものだ。なのに、それだというのに。
蛍光色の強いピンクに、雫が流れ零れていく。脳裏に微かに過る人影。


(貴方はだぁれ?)










(あ、また。)


お疲れ様です霧野先輩。柔らかな笑顔で甘い声で少女は自分に向けてわらった。ああお疲れ様、声をかけ軽くわらうと彼女の頬は微かに赤く染まる。可愛いなぁと思いながら、何処か違うと心の奥底で感じていた。
何が違うのだろう。自分は霧野蘭丸で、この学校の生徒で、文芸部に所属していて、可愛い後輩にも恵まれて。何処にも不備はない、完璧な状態だ。欠けたものなど有りはしない。なのに。


『───……きりの、せんぱい。』


ああ、また。
聞いたことのない声で、音で、口調で紡がれる自分の名前。ざあざあ雨の音にもそれは消されず頭の中で響き渡る。ゆらゆらと陽炎のように揺れては消える人影。知らないいらないわからない人、なのに。
襲い掛かるのは、泣きたくなる程の、喪失感。



(貴方はだぁれ?)



【消えない、見えない、わからない】

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二期妄想激しすぎて爆発しそう