さみしいとか、かなしいとか、せつないとか、そういった気持ちを思い出すのはあの時のことを考えている時だけだった。自分が生きていた時の、最期の記憶。けれどそれも時が過ぎれば不思議と薄れていくもので、そういった気持ちがなくなったわけではないけれど、そのことを思い出して膝を抱えて泣きじゃくるようなことはもうなかった。自分の涙とは長いことご無沙汰で。
でもよく考えたら幽霊に涙なんておかしいのかなぁ、と自分で自分に苦笑してしまった。だがそれを考えればこうしてこの地に立っていられるのも、風を感じられるのも、サッカーが出来るのも、彼の体温を感じられるのも全部ぜんぶおかしなことだ。

「シュウ」
「じっとしてて」

右手でさらさらと流れる髪を掬った。風になびく髪が指の隙間を零れていく。余った左手は白竜の右手に絡ませた。時折強く握って、彼が表情を歪ませるのを確認する。
さわれる。彼の髪が柔らかいこと、指の筋が骨張って浮かんでいること、触れたとこが温かくなることがわかる。
さわれる。まるで自分が生きているかのような錯覚。けれどこの感触もあの記憶のように、感情のように段々と薄れてしまうのだろうか。いつしか彼にさわれなくなる。この地にいられなくなる。彼が、見えなくなる。

「シュウ?」
「……じっと、してて」

風になびく髪が手のひらから逃げていく。その感触が離れていくのに合わせて、左手は強く力を込めて彼の手を握った。いっそ爪痕を付けてしまいたいくらいだった。
(もうすぐなくなる、君の髪も、手も、腕も足も頬も唇もぜんぶ、僕以外の誰かのものになる、君の目に僕が映らなくなる、君の声が僕に届かなくなる、君が、君が)



あぁ、ねぇ、白竜。僕は自分の涙なんて、とっくの昔に枯れてしまったものだと思っていたんだけれど。
君の前からいなくなる時、僕はきっと泣いてしまうと思うんだ。



【いたいいたい、君といたい】

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白シュウ白ぐらいの気持ち
シュウくん可愛い切ない、
でも私まだ映画一回しか見てない上にゲームやってない爆死