ぱたり、携帯を閉じた。それを適当に近くに放り投げて枕に顔を埋める。柔らかな感触に落ちて何処までも沈んでいって。終わる。漠然としたそれには実感がなかった。


終わりにしましょう。
先程送ったメールに書いたのはたった一言、それだけだった。
特に決定的な、何かしらの理由があったわけではなく、単純に純粋に、この人との関係を終わらせようと思った。何かを言い訳をするとすれば、鬱陶しくなった、嫌になった、どれもこれもしっくりとは来なくて。自分はこの人といてはいけないと思った、それが一番適切だった。
あの人は眩しい。明るく真っ直ぐで輝いていて、その光に惹かれたのは事実だった。だけど付き合えば付き合う程、傍にいればいる程、その眩しさに焼かれてしまいそうで、自分が醜くて恥ずかしくて怖くなった。あの人の傍にいる輝かしい人々のうちの一人にすらなれる気がしなかった。
始めから間違っていたのだ。あの人と自分は全く釣り合ってなんてなくて、なのにそれに気付かぬ振りをして、こうなることはわかっていたくせに。
携帯の着信音がやけに高く部屋に響く。あの人に対してだけ変えたその音にゆっくりと腕を伸ばし画面を開く。たった一通のメールにはたったの一行。


『そっか。ごめん』


滲んでいく文字を見るのが嫌で慌てて携帯を閉じた。溢れそうになる雫は枕に押し付けて湿らせる。
貴方が悪いんじゃない、貴方を嫌いになったんじゃない、言い訳ならいくらでも出来た。だがそれをする権利はもう自分にはなく、あぁ終わってしまったと、喪失感が全身を支配して嗚咽が後から後から零れるのを止められなかった。
利己的な自分すらも許してくれるその優しさはやはり眩しくて。目蓋の奥に焼き付いて、しばらく離れてくれなかった。



【優しさが滲んで消えない】

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さよならは君だけにに提出
難しかった…神崎様ありがとうございました!