ありがとな。

彼はそう言った。照れ臭そうに、何でもないように。決して特別な意味を持たせない風で、それはそれはとびきりの言葉を、白息と共に僕に向け吐いた。
何のこと、ですか。
僕は問い掛けた。本心からそう、言い放った。青峰くんがそう言う意味がわからなかった。青峰くんはこちらを向かない。ただ、唇の端が上向いているのが少し、見えた。

「だってお前、俺を助けてくれたろ」

だから「ありがとな」。彼は再びそう言ってわらった、ように見えた。
けれど僕は素直にそれを受け取れず、はぁ、と返事にもならない小さな息を吐いた。ゆらゆら揺らめく白は曖昧に透明を濁す。舞い上がって、青峰くんの姿を曇らせた。
助けた?果たして本当にそうだろうか。僕は青峰くんを、助けられたのだろうか。青峰くんを、助けたかったのだろうか?────違う、そうじゃない。考えて考えて、そう、断言出来た。


青峰くん、僕は君に証明したかった。実る努力があるってこと、勝つだけが全てじゃないこと、君の望んだ世界が存在すること、君がつまらなく退屈だと嘆いた世界がとても輝かしくて美しいこと、それを教えてあげたかった。それは確かに本当だ。
だけどそれは結局は表向きの、綺麗な綺麗な言い訳で、僕はそんな良く出来た人間じゃない。君とは違う、バスケが好きで好きで大好きで、何処までもバスケに真っ直ぐだった君とは違うんです。僕は狡く弱い、醜い感情でいっぱいの人間なんです。君に感謝される資格なんてないんです。だって、だってだって、


「火神くんと、────誠凛のみんなといて、気付いたことがあります」

照れてずっとこっちを見なかった青峰くんが、小さく声を漏らしてこちらを向く。真っ直ぐな、澄んだ眼差しに焼かれてしまうかと思った。眩しくて、眩しすぎて、つらかった。
青峰くん、僕はただ。


「僕は、……青峰くんに必要とされたかったんです。本当はただ、もう一度だけ。あの頃、みたいに」


青峰くんの目が見開かれる。普段はだるそうに半開きにしていた目を、大きく大きく開いて。
ごめんなさいと、耐え切れず呟いた。酷く利己的で身勝手で、自分が恥ずかしかった。眩しすぎる青峰くんの姿を、直視することが出来なかった。
ふわり、上から声が聞こえる。


「ばぁか。泣くなよ」


触れて、抱き締めてくれた青峰くんの腕は、泣きたくなるくらい温かくて。


僕は弱い人間だ。弱さ故に、あんなに大切だった君から逃げた。君と相まみえることすら誰かに縋らねばならない程に、脆く弱い人間だった。
僕は狡猾な人間だ。人の意志を利用して自らの目的を果たすような、卑しく狡い人間だった。
それなのに、そんな僕を大切だと抱き締めて、存在価値を与えてくれる。突き抜けるような青は温かくて眩しい。
青峰くんは紛れもない、僕の光なのだ。



【告白します、】

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親愛なる池谷様へ。黒バス見事にハマってくれてありがとう!笑