※帝光時代







青峰の放つ、光が好きだった。見る者全てを余すことなく魅了させる。青峰の光は、誰にでも平等だ。太陽が照らす相手を選ぶわけがないのと同じである。当たり前だ。彼等には、自らが輝いてる意識すらないのだから。



「…っだー!もっかい!青峰っちもっかいやるっス!」
「ばぁか、もう何回やったと思ってんだよ。休憩させろ」

そう呟いて座り込む青峰の横に、唇を尖らせながら黄瀬もまた渋々横たわる。フローリングの床がひんやりと気持ち良く、同時にここまで体温が上がっていたことに驚いた。試合時よりは乱れていない呼吸とは反対に心臓はずっと高鳴って、脳にまで響いてうるさい。
原因は、わかっている。相手が悪い。

「やっぱつえー…いいなー…俺、青峰っちみたいになりたいっス」
「おーそうかよ。だったらお得意のコピーとやらでなってみろや、俺も見てみてぇ」
「それが出来たら苦労してないっスよ……つーか、そうじゃなくて。俺も青峰っちやみんなみたいに、自分だけの技が欲しいっス。人真似じゃなくて、こう……」

表現しようと手を開き、結局浮かばないまま、それは宙を掻き額に落ちる。ぐちゃぐちゃの思考は運動後というのもあり纏まる気配がなかった。


キセキの世代。そう呼ばれる、宝石のように輝く集団の中で、今隣にいる青峰は黄瀬にとって飛び抜けて輝いているように見えた。何故か、などは言葉にして表せるものでなく、直感で、一目見たその時から、黄瀬はその光に夢中になったのだ。他の輝きも見たものの、やはり青峰は特別に、黄瀬の中で輝きを放っていた。
彼のように、なりたかった。それは決して彼の真似をしたかったわけではなく(いや全くその気がないと言えば嘘になるが、問題はそこではない)、同じように輝けば、彼もまた、自分に目を向けるのではないかと思ったのだ。太陽が自分を見付けてくれるように、見詰めてくれるように。向日葵は必死で、輝く術を探し足掻いた。幸い幼い頃から培っていた能力のおかげもあり、レギュラーになることが出来たのだから、自分にもそれなりに輝きは眠っていたのかもしれない。


ただ同時に、黄瀬は考えてしまうのだ。自分の光は、彼や他の皆のものとは違う。自分は、寄せ集めの光だ。他者のそれを身に纏っただけで、自分自身が発光しているのではない。紛い物。
自覚してしまえば、どれだけ周囲にちやほやされようと、襲い掛かって来るのは空虚ばかりで。そうして、やっぱり、と実感してしまう。
所詮、太陽と向日葵は違うのだと。

「はー……」
「……………」

柄にもなく吐き出された大きな溜め息に青峰の顔が歪むが、視界を塞いだ黄瀬は気付かない。勿論、そのまま伸びてきた左手にも。
鼻骨に走る鈍痛に、やっと黄瀬は目を見開き起き上がった。

「ふぎゃ!?ちょ、何するんスか青峰っち!」
「誰に何言われたか知んねーけど、馬鹿がいっちょまえにモノ考えてんじゃねぇよ」
「馬鹿!?酷っ!青峰っちにだけは馬鹿って言われたくないっスよ!」
「はぁ!?ふざけんなこの馬鹿!」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんスよ!んぎゃっ!」

鼻を押さえてぎゃんぎゃん喚くのに腹が立ったのかデコピンを一発。痛いと涙目の黄瀬に、ばぁか、ともう一度だけ青峰は言い放つ。

「誰の真似をしていようがお前はお前だろ。他人のでも、お前がやればそれはお前のもんになる。元ネタなんてどうでもいい、『お前が』、スゲーことやってたらそれで良いんだよ。それがお前になるんだから」

つーかそれぐらいもわかんねーような奴に言われたことなんて気にすんな。
なんでもないことのように、言ってのける青峰が格好良くて、眩しくて。ぱちぱち、大きな瞳を何度も瞬かせる黄瀬を、マヌケ面だと青峰はわらった。だけど、青峰だって相当馬鹿だ。なんという開き直り。なんという─────なんてこと、言うんだ。

「おい、黄瀬?」

ああ、もう、勝てない。敵わない。
覗き込もうとする彼から逃げるように顔を背け、結果うつ伏せになってしまう。フローリングに触れるのは熱い頬。どうやら休憩はまだ終われそうにない。



【馬鹿な君の理論に僕は救われる】

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一日遅れました、が、
ぴいちゃんお誕生日おめでとう!