疲れた顔をしているノアール君の顔を見てぎゅうと拳を握りしめる。
彼は知らないだろうが、私はきっと彼の望むものをたやすく与えることができるのだ。
世界を歪めるまでもなく、私が、私の意思で、彼の心臓をつかみ取れば、
彼の魂を握りこんで、黄泉と呼ばれる世界に帰ってしまえば、彼は再び起き上がることはなく、環の中に帰り全てを忘れ、眠り、目覚め、再びいつか眠ることができるのだろう。
それはきっと 




私と彼の性質は似ている。けれど決定的に違うことといえば彼は生きていて、私は死んでいるのだ。
悪魔である以前に死んだことで輪から外れてしまった私は、既に死んでいるが故に環に還るために一番確実である死を迎えることができない。私の魂はとうに死と癒着しすぎているからだ。いやもしかしたら、どうにかして環に戻ることはできるのかもしれないけれど。それでもやっぱり還ることは酷く難しい。
その点、彼は生きている。生きているのだ。何度だって死を迎え生き返っている。
ずっと癒着しほぼ死を司るものと同位体になった私とは違う。生きているということは死を迎えることができるということ。彼の魂が強力ゆえに再び生に浮上するというのなら、浮上せぬように一度完全に沈めてしまえば、彼の魂は再び環の中に帰ることができるようになるだろう。
しかし私は彼に安らぎを与えることは自分からはきっとしないのだろうと分かり切っていた。
至極自分勝手で、理不尽な理由だって私にもわかっている。けど、それでも、




ひとりは、さみしい。




そんなこと考えるたびに、彼が望むものを与えない私は、やっぱり愚かで欲深く、業の深い生き物なのだと思い知らされる。
それでも、彼がこの事実に気づいて、願い乞うたなら、私はいつか彼を、泣きながら送り出すのだろう。
唯笑って、馬鹿な事を云って、潔く送り出して、いなくなった相手を想って、ただ叫びあげることもせず、彼が生きていたという証を全てをかみしめながら再び歩むことになるのだ。


「ノアールくん」

そっと呼びかければ紫の瞳がゆるゆるとこちらを見つめる。
握りしめすぎて爪が食い込み裂けた掌にはもうすでに傷痕はない。
その手を差し出しながら力なく笑えば、仕方なさそうな顔で彼も笑う。
知らぬままでいてほしい。気づかぬままでいてほしい。
そうすればきっと私は、何事もないように、このまま彼とともに入れるのだから。
ただ、もしも、本当にいつか、私も環に還れることになったなら、
そのときは、


「いっしょにかえろう」











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