「どうやったら貴様の苦しむ様を見れるんだろうな」
「腹でも腕でも持っていけばいいんじゃないの」
ほらと両手を広げれば「それはもう飽いたわ」とシカトされた。敵対してた時から散々もがれてできるだけすぐに治してたが神経通ってるんだから痛いものは痛い。あの時は余裕を装わなきゃいけなかったから笑ってたが今やられた大絶叫一人阿鼻叫喚間違いなしなのになと思う。
いや痛いのは嫌なのでさすがに痛覚形成はなげだすかもしれないが。
「なんでメガトロン閣下は私を虐めたいんですかー」
「貴様の顔は気に食わんからだ」
「予想外にストレート過ぎてつらい」
傷ついたと胸元に手を当ててポーズを取ればハンッと鼻で笑われた。
「いつかその気持ち悪い面をはがしてやる」
「オォウ…………」
生皮剥がれるのはさすがに初めてなので優しくしてくださいねと笑えば愚か者めがと見下された。何故。
底無し沼を手でかきまわす。
(感情を露にした悪魔をみたいめがさま。)
「明日もし地球が滅ぶならなにするかぁ…?」
くだらない上に笑えないわよそんなのと言えばまぁまぁとなだめられる。いつも通り過ごしたいとか酒を浴びるようにのむとかバカな意見が飛び交う。そんなのやること決まっているだろ。
「オプティマスとメガトロンに土下座した後ラチェット達に仕事押し付けてその間に知り合いに殴り込みにいく。」
さも当然のように言えば予想外だったのかみんなぽかーんとしていた。
ぐっぱいえんどわーるど。。
(地球がだめならセンチネルの機械つかってサイバトロンに引っ越せばいいじゃない。な意見のマツリ。)
「なぁラチェット」
「なんだ」
「お前それ楽しいの」
「楽しいというか非常に興味深いな。成分も去ることながら普段は気化して捕食時のみ固体化しエネルギーチューブのかわりになるとはどういう原理だ。」
「知らん。あとジョルト」
「なんですか」
「お前もそれ楽しいのか」
「楽しいというより面白いですね。こんな風に生物みたく動かすにはよほどの訓練しないとできませんから研究のしがいがあります」
「………もうしまっていいかな」
「「まだだめ」」
欲よ。つきるなかれ。
(触手研究なう。)
夕焼けにきらきらと輝く金髪と優しく腕に抱かれた子をみて思わず息が詰まった
それはどこかで見たことのある光景である。
美しい母と優しい父と柔らかな幼子との、どこにでもあるであろう、幸せそうな
くらくらとめまいがした。
わたしはなぜここにいるんだろうわたしはなぜあのこたちのあのひとたちのそばにいないんだろう
やくそくしたのではなかったのではないかちかったのではなかったのではないかそういうけいやくだったのではなかったのではないか。
なのになぜわたしだけがここでそんざいしているのだろう。
なぜわたしは彼女を、彼らを、まもれなかったのだろう。
「マツリ?」
ごめんなさいごめんなさい
口を押さえてしゃがみこみ聞こえないようにそうもらす私をみて、誰かがやさしくささやき、誰かが背中をさすり、そして小さな手が頭に触れるのを感じて、流れるはずのない涙がこぼれおちそうなきがした
うつくしき憧憬への贖罪。
(確かに彼女はその一つの中に溶け込んでいたはずだったのに)
《被害者は左脇腹を刃物のようなものを刺されており、警察は最近起きている通り魔事件との関係性をー―》
「あ。」
急に切れたテレビに声を上げて振り替えれば不機嫌そう(いつもフードで顔が隠れてわからないが)な悪魔が立っていた。もちろんリモコンをもって。
「なにするんだ」と文句を言えば「大佐がよんでましたけどた」とやはり不機嫌そうな声がとんできた。
「だからって急に切ることないだろうが」「うるさかったしほらさっさといけ」とガツンとソファを蹴られしぶしぶ立ち上がる。
『くそったれめ』
異国の言葉で悪魔が何かをささやいたがわりといつもの事なので気にせず休憩所を後にする。
車庫の外の日射しは酷く眩しくて、先程の続きが気になったテレビのニュースなんてすぐに忘れてしまった。
死体を殺す英雄を誰も知らない。
(自分の死因に近いものをみて思わず胸糞悪くなる悪魔)
ごほごほと咳き込み床に血を吐き出す。舌も食道も胃も爛れてしまって呼吸困難になりながら何が起きたのか理解した。
でも なぜ どうして それが
ひゅ、と息を吸うも口内の血が邪魔で酷く咳き込んでしまい余計に呼吸が出来なくなる。
「毒か?!」「みんな飲むな!!」「医者を!!」なんて叫び声が聞こえるなか違うと首を振る。
毒ではない。毒ではないのだ。毒ならばすでに同じポットから飲んでいる人達が既に同じ症状を訴えていただろうに、他の人間達には無害である。
いや人間だからこそ無害だった。でも、なぜ、そればかり頭の中に浮かんでいてうまく考えられない。
不意に勢い良く体が引っ張られて胸の辺りが圧迫された。運びだそうと私を背負わせのだろう。けふりとまた噎せると背負った相手の肩にびちゃりと血がとんだ。
汚れてしまうからやめろと言うと、酷く怒鳴られた気がするが生憎と何をいっているかわからなかった。
遠くなる意識の中でふと青い光と目があう。ああそういえば以前にもこんなことがあった。あのときは目が覚めると、強がりの家族が皆泣きそうな顔をしていたんだ。
たくさんたくさんおこられた。けれど、
なにか理解できないものを見たような彼等の前を通りすぎる。
それをみてああ、彼らのなかで私という存在は消して倒れないものだったのだなと思い返す。
引きちぎれようと、突き刺さろうと、へし折れようと、必ず彼らの前に立ちはだかっていたのに。
過ぎていく青い輝きを見つめていると、どろどろと思考が溶けていく。揺れる背中は暖かく、とても穏やかな気持ちになるが、それとともに、酷く寂しくなって私はゆっくりと目を閉じた。
きっとめがさめたとき
わたしのまわりにはだれもいないのだ。
エネミーアローン。
(1人きりの疎外感。)
ああ、それはなんて
げほりと辺りに血を吐き出しながら倒れた彼女に理解ができなかった。
呼吸困難から顔を青ざめさせる彼女を見てハッとする。
部下達に指示をだし少女駆け寄り意識確認をするがあまりにも朧気な視線に危機感を覚えてひとまず医務室に運びこもうと身体を起こし背負った。
霞消えそうな声でよごれる。と一言だけこぼした少女に「馬鹿野郎!!」と怒鳴り付ける。
背負った体は酷く軽く冷たい。苦しそうに咳き込む度に肩から汚れていく服など気にはならないが、伝って滑りやすくなるのだけが厄介だ。
時折背負い直しながらも医務室に走る。本当は動かさない方がいいのかもしれないが、毒などの場合急いだ方がいいし、何より彼女は特殊なのだ。
そこまで考えてふと気づく。そうだ、彼女は俺達とは違う。
あの場で倒れたのは彼女だけで、他の者には何の被害もなかった。
もし、カップにはなにもなかったとしたら、もし、俺達が何気なく使っていたものが、彼女にとって猛毒だったとしたら。
「くそっ!!」
呆然としているオプティマス達のそばを走り抜ける。
果たして医務室の設備が彼女に取って役にたつかわからないが無理ならば隣のリペア室に駆け込んでラチェットやジョルトに更に詳しくサーチしてもらうしかない。彼女の生態に関しては研究監視担当であった彼らが一番知っているはずである。
耳元で聞いた小さな言葉をふりきるように、ただただ走ることしかできなかった。
「さみしいよ」
ぽつりとこぼされたそれは
心臓から吐き出すような声をしていた。
聖者の毒物。