「他の奴らの前で笑うな」


クラスで、蜜柑やみんなと談笑していると、急に棗くんが来て私の手を引っ張った。
そのまま教室を出て、校舎も出て、北の森の出入り口まで来ると、やっと棗くんは止まってくれる。
どうしたの、と何度も聞く私を少し睨んだ棗くん。
それから冒頭に戻る。

明らかに不機嫌そうな顔、声で棗くんは言った。
私は訳が分からずどうしてと聞こうとした時、棗くんの手が私の頬に伸びてきてぎゅっと頬を抓った。
手は私の頬を抓ったまま離さない。


「意味わふぁんない…」

「…ブス」


棗くんは私の言葉に反応せずブスと一言呟くと、反対側の頬も抓りだした。
ガーンとブスと言われたことにショックを受けている私。
そんな私に気付いた棗くんは、頬を抓ったまま口を開いた。


「見せたくない」

「?」

「お前の……、名前の笑った顔を他の男に見せたくない」


…ああ、自惚れてもいいんだろうか。
私の目を真っ直ぐと見てくる赤い瞳から目を逸らせずにいた私。
頬を抓っていた手はいつの間にか添えるように頬を触っていて…。
棗くんはそのままグッと顔を近づけると、拗ねたような声で返事と呟いた。


「え、う、でも…」


笑うなって、笑わなかったら感じの悪い人になっちゃうし…そう言おうか迷っていると棗くんは舌打ちをした。
ぎゅっと頬に添えられた手に力を入れて、棗くんは私を睨むように見てくる。


「ぜってぇ頷かせてやる」

「………、!」


は囁かず
何も言わなくても、彼の熱い唇から伝わってくる。



20110709