「行かないで…っ!置いていかないでっ」

暗闇の中、ひたすら走るのに、相手は止まってくれない。
それどころか、距離がどんどんできて、暗闇の中を一人で走る。

「…っ一人に、しないで……!」




「あだっ…」


おでこに小さな衝撃が走って、目を開くと日向くんに寄り掛かっている私。
どうしてこうなったんだろう…。ぼけーっと考えていると、また眠りそうになった。


「あわわ、ご、ごめんなさい!」


ボッと目の前に炎が現れて、こっちに近づいてくる。
日向くんのアリスだ、とすぐ分かって謝ると、炎は消えた。
恐いよ、その炎…。
はあーと長い溜息を吐くと、ルカくんがいつも抱っこしているウサギさんが来て、すぐ後にルカくんも来た。

日向くんは立ち上がって、ルカくんと喋る。そんな姿をぼんやりと見ていると、突然二人が私を見て、少し焦ったけど二人に反応はなかった。


「…行くぞ」

「え、どこに…?」

「教室に決まってんだろ」


日向くんはそう言うと、スタスタと先に行ってしまって、ルカくんは私を見て優しく笑って、行こうと言った。
だけど私は首を振って、今日は行かないと答えると、そっかと苦笑をしたルカくんは、日向くんの後を追いかけた。




『あいり』


風が吹いた時、なつかしい人の声が聞こえて、胸が少し締め付けられた。
ぎゅうぎゅうと苦しくて、だけど、どこかくすぐったかった。
そして、その人の顔を思い浮かべた時、目の前で揺れる木の葉や青い空に浮かぶ白い雲、全てが滲んだ。



キミの声が
(優しく笑って)(囁いた)



20110611