01


 世界の裏側に落とされて三日が過ぎた。
 その内一日はレフィという竜人女性に助けられ、残る二日は一面砂の世界を歩き続けている。
 こうなった原因としては、彼女が集落へ向かう。という発言からだった。


『集落?』
 半分が文字と取り消し線で黒く埋まった紙に、新たに文字を綴る。それを見て、レフィは紙をひったくり、ペンも取り上げた。くれたのではなかったのか。
「ずっと砂漠で流浪の民をしている訳じゃない。ここは一帯が砂で覆われているが、反面オアシスが多く、そこで永住する奴らもいる」
 クルクルと手際よく紙は丸められ、彼女の鞄の中へと入れられた。ペンも同様だ。
「砂の上で延々野宿するよりはいいだろ? それにこの暑さだ、夜との気温差が激しすぎる。私はともかく、お前は弱いからすぐに死にかける」
 影代わりになってくれていた簡易テントも崩され、手際よく畳まれて鞄の中へ。焚火の跡は燃え尽き石炭になった木材は棄てられ、まだ使えそうなものも鞄の中だ。彼女は中が灰で汚れても気にしないのだろうか。
「だから、これからの私たちの目的は近くの集落へ向かう事。ルイ、お前のその呪いもどうにかしないといけないからな」
 そう言われ、包帯のまかれた首にそっと触れた。じんわりと指先が濡れる感覚がした。


 * * *


 昨日の晩、涙で腫れた目を冷やしつつ、レフィが語っていた。
「お前のその呪いは解けるモノだ。呪式は単純明快、効果も、痛みが伴うだけの大それたものでもない。ただ、残念ながら私はその呪いが何たるかは解っても、解く事はできない」
 目を冷やしていた、水に濡れたタオルが外される。ぼやけた視界に、彼女の赤い髪が映った。どこか懐かしさのある、カーマインだ。
「呪いに詳しい友人がいる。研究方面でも、解呪師としても腕が立つから安心しろ。死ぬことは無いぞ」
 何処からか取り出した包帯がぐるぐると刺青の上に巻かれていく。首が絞められる感覚はあるが、強烈な痛みと比べたら幾分かマシである。
「さて、巻いただけだが、これで他人に詮索されることは減るだろう。呪いを刻まれた人間なんて、レア中のレアだからな。……流石に人買いは滅多に遭遇しないから安心しな」
 滅多に、とはいっても存在するのは存在するのか!
 表側、エレスの方でも人攫いに人買いはいたけれど、こちら側でも同じなようで思わず頭を抱えた。売るに値する生物だと認められたのは、全く嬉しくない。
「さぁ、とっとと寝ろ。体力つかんぞー」
 包帯を巻かれた次は布で全身を簀巻きにされ、そのまま砂の上に転がされた。扱いが雑すぎる!




 かくしてそのまま眠りにつき、朝日も昇らぬうちに叩き起こされ、今に至る訳だ。

「歩きながら文字を書くのは危険だからな。何か言いたい事があったら、唇を動かして発言しろ。声は出さずに、唇だけ、いいな?」
 コクリと頷く。読唇術ができるなら、何故昨晩は筆談をさせられたのか、疑問が浮かんだが大したことでもないと思い、頭の片隅に放っておくことにした。
「水瓶は渡しておく。水がなくなったら、魔力を込めれば底についてる石から水が溢れてくる」
 水の入った瓶の底を見る。小さな青い石が歪んで見えた。
 話を聞くに水の心配はないようで、随分と発達した文化だと思った。沸騰させなくても、お腹を壊さない水が飲める、それも無限に。水の心配はなさそうだ。
「ただ、無限湧きではない、ということだけ覚えとけ。そうだな……それだと、残りは十回ほどだな」
 前言撤回、水の心配はあった。

「試しにこっちの空瓶に水を込めてみろ。たまに下手くそな奴がいるんだ」
 持っていたものを交換するように、空の瓶を渡される。
 そして、言われるがままに、大気から魔力を借りるイメージで瓶の底の石に魔力を込めていく。が……。

「お前、下手くそか?」
 違う!!
 そう叫びたかったけれど、瓶に水は込められていない。
 魔力を物に込める、魔力操作の技術は得意な部類に入っていたはずなのに、何故か結果は散々なものに。何がどうなっているんだ。
「しょうがない。できないのはどうしようもないんだから、水の補充は私がやる」
 僕の手に収まっていた瓶を掠めとり、レフィは手慣れたように空瓶に水を補充した。
「何だよ、できなかったからってそんな顔するな。できない奴は一定数いるんだから、な?」
 子供に接するように頭をポンポンと叩かれる。もう16ではあるし、子供扱いされる歳でもないのだが、そんなことを言っても信じてもらえるはずもなく、気恥ずかしさやなんやらで顔を覆うことしかできなかった。




  
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