それは、恐ろしいほどゆっくりと。 小さな花弁をばらまきながら、ゆっくりと落ちてくる。 ちがう。あれは花弁じゃない。ただの紙片。 それでも、ただの紙片を花弁と思わせるほど、その少女は美しかった。 思わず、腕をさし出す。落ちてくる少女を受け止めるように。 ふんわりと、軽い少女は腕の中に落ちてきた。 伏せられていた目が開き、僕を見つめる。 「ああ・・・香菜か。何だ、駅伝の練習か?」 「・・・そのとおり」 ああ、ほら、翔子が落ちたからみんな心配しているじゃないか。 2階の窓から、数人の吹奏楽部員が顔を出している。 普通なら、骨の一本や二本、下手したら命まで失いかねない。 僕が五体満足で受け止められたのも、翔子が異様に軽かったせいだ。 不思議なほどに、重なった偶然。 「おー今から戻る」 僕の腕から落ちるように、翔子は地に足をつけ、校舎へ走りだした。 落下少女 過去のお話。 |