僕は教室で完全に浮いている。
僕が教室に居るだけで、クラスメートだけでなく教師までもが黙り込み、教室内には不穏な空気が漂うのだ。
僕が教室を出た瞬間、張り詰めていた教室内の空気がはじけ、急に賑やかになる様子を廊下で聞いている時の僕の気持ちがわかるか。
教室ではポーカーフェイスで平然としているが、なんかちょっとつらくなったときに利用者の少ないトイレに駆け込んですすり泣く僕の気持ちがわかるのか。目つき悪いけどメンタルは弱いんだぞコラァ!
ひとりぼっちの運命?勘弁してくれ。
そんなわけでぼっち飯は避けられない。
「………ワオ」
昼休み。弁当を食べようと屋上へ通じるドアを開いて、思わず声が漏れた。
屋上には既に先客が居た。いや、別に生徒が居るのなら別に構わない。構わないのだが、問題なのはそこに居た人物。
ねえ、主人公居るんだけど。
主人公っていうか、沢田綱吉。獄寺に山本も居る。え、三馬鹿トリオ揃ってるじゃないですかヤダー。
お、おおおお落ち着け。落ち着け自分。
別にあいつらに偶然会うくらいどうってことないだろ。同じ学校の生徒なんだし。
そうだ、このまま何事もなかったのように屋上から出れば………
………おい獄寺隼人、その口に咥えてるそれはなんだ?
もしかしなくても、それは、いわゆるタバコとかいうやつではないのか?
ここで良い子のみんなに思い出してほしい。
僕はなんの委員会に入っていたかな?そう!風紀委員会!そして委員長さ!
校則を破る生徒を放置することができないとてつもなく厄介な立場の人間なのだ!(説明口調)
頼むから死んでくれ。2回くらい。
この湧き出る殺意は誰に向けたものなのか自分でもわからないまま、僕は獄寺に近づく。ちなみに沢田は既に怯えきっている。山本も謎の冷や汗をかいている。
なにその態度。口で注意しに行くだけなんですけどほんと怒るよそろそろ。
「君、校内でタバコを吸わないでくれるかい」
「あァ?」
ひっ、顔こわっ。タバコくさっ。
獄寺は眉間にシワを寄せ、ギロリと僕を睨みつけている。
「タバコを吸うのは校則違反だ。持っているタバコ全部出して。風紀委員が没収させてもらう」
もうこうなったら意地でも没収してやるぞという気持ちで今日の僕は強気だ。いつものヘタレと同じにするなよ。
「何様のつもりだテメェ、調子乗んなよ」
うわっ。
びっくりした。獄寺が急に僕の胸ぐらを掴んできた。本当にすぐ手が出るなこの子。
「手、離してくれるかな」
でも僕は暴力で解決しようとなんてしない。心の穏やかな人間だからね。
訴えるような瞳で獄寺を見つめてみる。
▼とくに なにも おこらない!
▼こうか は いまひとつ の ようだ!
「や、やめなよ獄寺くん!」
あ、やっと飼い主が仲裁に入ってきた。遅いよ、あと犬のしつけはちゃんとしなきゃ。
「10代目が、そうおっしゃるなら…」
獄寺は不満そうな顔をしながらも、しぶしぶといった形で離してくれた。うわ、襟元シワになってる。
さっさと帰れと言わんばかりに睨んでくる獄寺に手を差し出す。
「タバコ、出して」
簡潔にそう言えば、獄寺は大きく舌打ちをして、ポケットからタバコの箱を一つ取り出し、僕の手のひらに叩きつけるように置いた。
おそらく、まだ大量にタバコを隠し持っているのだろうが、それを全て出させるのも面倒だ。これでいいだろう。
「確かに」
そう言ってタバコをポケットにしまう。
か、完璧だ…。とっても普通の生徒の対応ができた…!
胸ぐら掴まれたとき、反射的に手が出そうになったけどなんとか抑えた僕は偉い。
上機嫌で屋上から出る。
僕は気が付かなかった。この一部始終を見ていた人物の存在に。
「雲雀恭弥、おもしれーな」
知らない間に、一番恐れていた事態が起こっていたということに。
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