屋根のあるところで一夜を過ごしたのは久しぶりだった。
ふかふかの布団に包まれて眠るのも、朝起きるとあたたかい朝食が用意されているのも、屈託のない笑顔を向けられることも、他人に優しくされるのも、初めてのことでむず痒い。
全くの赤の他人なのに、どうしてここまでよくしてくれるのか。 どうしても理解できなくて、なにか裏があるのではないかと考えてしまう。無償の愛というやつが、少し、気味悪い。
それは犬と千種も同じのようで、一瞬の気も抜かないという様子で警戒しっぱなしだ。顔色を見る限り、まだあまりよく眠れていないらしい。
犬と千種は『隙を見て逃げよう』と何度も言ってくるが、私は却下した。まだ少し様子を見ても良いと思った。なぜ、他人に優しくできるのかが知りたい。 それに、利用できるものは利用したほうがいい。 利用され利用するのがこの世の常だ。
私達三人の世話係はランチアという男がすることになった。 顔に二本の切り傷がある、眼光の鋭い男だった。 なんでも、元々は孤児だったらしく、私達と同じように拾われてからはこのファミリーの用心棒として、北イタリア最強とまで呼ばれるほどになったらしい。
顔は怖いというのに、雰囲気は何故だか穏やかであたたかく、嫌な感じがしない。不思議な男だった。
ランチア先輩は、私達を本当の家族のようにかわいがった。まるで、血の繋がった弟たちに接するかのように。
そんな態度に、犬と千種は次第と警戒を解いていった。
けれども、わからない。まだ、私は。
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