閉店間際だったが、運良く八百屋を見つけた。店主の姿はなく、店先には赤く熟した林檎がたくさん置かれていた。
盗むことに抵抗は無かった。生きていくためには仕方がない。
持てる分だけ沢山の林檎を抱えて、二人の元へ戻ると、一人は声にならない悲鳴を上げ、もう一人は声もなく気絶した。
相当張り詰めていたのだろう。二人を暗闇の中置いていったことを少し後悔した。
今も震えながらこちらを凝視している少年に、林檎を一つ差し出す。
しかし、受け取ろうとはしない。
少年の目には、はっきりと警戒の色が映っていた。当然の反応だ。長年、酷い仕打ちを受けてきた人間が、すぐに人を信用できる筈がない。
「食べないのですか?」
一言、声を掛けてから、差し出していた林檎を自分の口元に近づけ、小さく齧る。 みずみずしい林檎が、渇いた喉をじんわりと潤した。
林檎を齧るたびに、皮のはじける音が響く。 少しずつ、少しずつ、林檎を食べていくと、ぽたっと、水の落ちる音が聞こえた。 林檎から目を外して少年を見れば、林檎にくぎ付けになって舌をだらんと垂らし、その舌を伝ってよだれがこぼれ落ちていた。
「食べなさい」
真新しい林檎を差し出せば、今度はちゃんと受け取り、なんの躊躇いもなく齧り付いていた。 先程気絶していた方の少年も目を覚まし、林檎に食らい付く。
ひたすら二人は、必死に林檎を食べ続けていた。
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