「君達、私のもとに来ないか?」

またか。
そう思いながら振り向くと、そこに居たのは人の良さそうな顔をした、裕福そうな40代ほどの男性だった。
優男という印象はなく、むしろ威厳を感じた。これまで声を掛けてきた大人達とは、明らかにオーラが違っていた。

犬と千種は警戒心丸出しで、今にもその男に噛み付かんばかりの勢いだったが、私は試しに男に付いて行くことにした。

そういう風に話を持って行くと、二人はいつものパターンだと理解したらしく、大人しく付いて来た。




連れて来られた先は、大きな建物。
警戒しながらも建物の中へ入ると、そこにはいかつい顔をしたスーツの男達が大勢居た。

「なんだボス、また連れて来たのかよ」
「ったく、ここは託児所じゃねーぞ」

男達は茶化した口調で言う。言葉ほど嫌がっていない、むしろ楽しげな様子だった。

「紹介が遅れたね。ここに居るのは私のファミリーだよ」

ファミリー?それは一体どういう意味で……



「私達はここらをまとめ上げているマフィアでね、私がそのボスだ」



____マフィア?


ゴトン。
後ろから何かが床に打ち付けられる音がした。反射的に振り向けば、千種が仰向けに倒れていた。
マフィアという単語にパニックを起こして気絶してしまったらしい。
恐怖はまだ、根強く残っていた。

犬は気絶こそしなかったが、目の前の大人達を必死に睨みつけている。身体をブルブルと震わせながら。

ここに居る人間は全員マフィアだ。あの、残忍な人体実験を行っていた奴らと同じ。

その筈なのに、何故だか嫌な感じはなかった。

だからこそ犬も、困惑していたのだと思う。


「…ひでぇことをする奴が居たもんだ」
「まだこんな小さいっていうのに」

二人の異常な反応から察したのだろう。大人達は口々にそう言った。


引き取られたその日から、生活は一変した。




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