ようやく異世界に来たという現実をなんとか受け入れた頃のことだ。シノは今まで張り詰めていた緊張緩んだのか寝る前に自分のものが勃起しているのに気がついた。

(ああそういえば全然シてなかったなあ)

健全な大学生ならオナニーは週2ぐらいでするだろう。以前に同じ学部の友達が自慢げに週8と言っていたのを聞いて爆笑したのは良い思い出だ。

(なんか他人の家でするのも恥ずかしいな)

自室なら誰の目も気にせず出来たが、ここはフレイムの屋敷で使用人たちが多くいる。ましてや布団を汚したら顔向けも出来ない。バレたら気まずくて仕方がない。
しかし放置してもシノのペニスは元気なままで、熱く硬く張り詰めている。

落ち着く様子がないのも10日以上はもうオナニーはしてないからだろう。布の上からなぞるだけでびくっと震える元気な様子にシノは、仕方なく抜いてしまおうと部屋の電気を消した。
枕元のティッシュのような柔らかい紙を何枚もとって、下着からそっとペニスを取り出す。

「んぅっ」

軽く握るだけで、ぞわっとしてうめいてしまうくらいには欲求不満で、シノは毛布を全身に掛けて声と音をなるべく潜めながらオナニーすることにした。
なるべく汚しませんように、と祈りながら。

くちゅくちゅと音を立てる先っぽを指先で擦ると先走りをこぼし、それを竿に纏わせて全体を扱く。

「ぁ、んっ…ふ、ぁ、あ」

何日ぶりかの快感に空いた手で口を覆っても堪えきれない掠れた声で喘ぐ。

「はぁ、あっ…ぁ、んんぅっ」

今までと違う環境だからか妙に興奮を覚えていた。誰かにバレるかも、人の家で、そんな背徳感すら欲望に加速を加えるだけのものになる。鼻に掛かったような息を吐きながら、じんわりにじむ汗をシーツでぬぐう。

「あ、あぁっ…」

バレてしまうかもしれないのにシノは声を抑えきれなかった。

「や、ばっぁ、あっァ…んぁ、あっ!」

びくびくっと太ももが揺れ、背筋がぐぐっと仰け反る。足の指がシーツを蹴り、腰の奥がずくずくと熱くなっていく。
ぐちゅっぐちゅっじゅぶぶっ

「ひ、ぃっ…あ、あ、ぁっ」

いやらしい水音に耳を塞ぎたくなるような羞恥を覚える。こんな、いつ誰が通るかもわからない廊下の前の部屋で。
にじみ出る先走りの滑りを活かして更にペニスを責め立てると、だんだんと限界が近づいてくる。何枚も取っておいたティッシュのような者でペニスの先っぽを包み込んで、裏筋をひっかく。
「ぁ、あっ…んんんぅうッ!」

びゅるるるるっ
勢いよく飛び出た精液に身体をひくつかせて、シノはようやく安堵の息を吐いた。




フレイムは、これほどまでに自分の耳が良いことを後悔したことはない。鼻も耳も目も、獣の血のおかげで戦闘にはずいぶん役に立った。人間の何倍も鋭い感覚が、はるか先のシノの部屋の離れた位置の、揺れる気配を敏感に感じ取った。
しかしそのときはまだ、シノが自慰をしているだなんて想像もつかなかった。
もしかして泣いていたり、何かが起きているのではと思い込み心配したフレイムは仕事終わりに真っ直ぐ部屋のすぐ前まで来て、掠れるような喘ぎ声に氷のようにピシっと固まった。

「ぁ、あっ…」

くぐもっていてもその声が何をしているのか如実に表している。それが分からないほどフレイムは馬鹿でも無知でもない。
戦になれば何日間も緊張し、同期が興奮して自慰をする様子なんて散々見てきた。

「は、…あ、ぁん」

息をのんで、気まずい空気なのにその足は動こうとしない。聞いてはいけないものなのに、ピンと立った耳がぴくぴく動き聞き逃すまいと盗み聞きをしていた。
熱のこもった声と、水音も聞こえフレイムは思わずシノの姿を想像した。顔を赤くして、いじらしく自分の指で自慰をして、ひぃひぃと泣いている。目に涙を浮かべ、顔を歪ませているに違いない。

(くそっ)

「ぁあ、あッ」

内心悪態をついてもシノの切ない喘ぎ声は止まらない。むしろ限界が近いのかだんだんと大きくなっていく。
それでも部屋の外にいるのがもし人間であれば、よっぽど耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声だ。狼の獣人のフレイムだからこそ聞こえる声だった。

しかし、フレイムはシノが自慰をするのは初めてではないかもしれない、と思った。遅くに帰ってきて既にシノが寝ていることもあった。他の使用人がフレイムのように聞き耳を立てていたかもしれない。

この声をフレイム以外の誰かが聞いていたかもしれない。そう思うとフレイムの心に火が灯される。
そんな奴がいれば引き裂いてしまいたいと思うほど。

「ぁ、…」

シノの声に、フレイムのペニスは反応していた。どんな女性に誘われても食指の動かなかったというのに。娼館に誘ってきた同期にそんなことには興味がないと言ったのはつい最近のこと。
何より人間相手に弱みを作るのも、無警戒になるのも嫌だという理由で。最後まで国に尽くすと決めたそのときから、フレイムには欲望がなくなったのではないかと思ったくらいそのペニスは元気がなかった。そんなことも気に留めなかった。
それがどうだろう。布を押し上げるくらいに、低く小さく、泣くような、それでいて男のシノの声に反応している。
そんなフレイムの気も知らず、シノは限界に近づいてその手を早めていた。

「あ…あぅっ!」

ひときわ大きな声。フレイムは身体を悶えさせてピンクに色づくシノの肌を想像して、これ以上ここに居られないと足早に自室に帰った。
その夜、フレイムは久しぶりに自慰で、自分の欲望を吐き出した。

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