「アマネ様が保護されたとのことです!!!」

会議の最中に飛び込んできたのは朗報だ。その報告に文官達はおお、と立ち上がって喜んだ。
王だけでなく臣下もアマネはもしかすると実在しない、もしくはもう異国に連れ去られたと考えていたものも多かった。そうなればこの雨は止まない。その対策についての会議の最中だった。
雨は人間の力でどうにかなるものではない、この会議のはじまりからどの文官も顔色が悪かった。それが今は喜色に満ちている。

「アマネ様の状態は」
「は、やはり売られるところだったようでその艶やかな御髪に建築用の染料を塗られていたとのことです。また山の中を逃げた際に草木で無数の切り傷と痣が出来たようですが、今は回復していると」
「おお…可哀想に。しかし良かった」

本来ならば王宮に丁重に迎えられる神だった。それが私欲にかられた人間のせいで、失うところだった。
本来誰もが焦がれる黒髪を安物の染料で無理やり変えられ、草木で傷付くほど靴や服はほとんど意味を成していなかったということ。

「売ろうとしたものは国賊であります。今すぐひっ捕らえましょう」
「そうだ。何日間も…ああ、アマネ様」

国賊のせいで、今もこの雨は止まない。
保護された時は、ひどい豪雨だったという。雨がこの地の人間全てを押し潰すような。アマネの意識を失ったあともそれがしばらく続いた。
その雨も今は落ち着いている。

「いつ馬車は着く」

ざわめくなか、王は一言。報告を告げた臣下は頭を下げた。

「は、今日の夕暮れには王都に入れるようです」
「そうか。ご苦労」

王都に、王宮に、国王に、近づくごとに雨は少しずつ静けさを見せている。既に緊急時のための水は貯め終えている。これでしばらくは保てるだろう。それにアマネが生きている間は水に困らない。
問題はこの王宮に来て王と会ってから。それ次第では雨は敵にも味方にもなる。

「そうとなれば、陛下。アマネ様のお部屋を今すぐにでも、テンルイ宮を」
「国一の絹を使ったベッドを、寝着を。アマネ様の白い肌は傷つきやすいと聞きます、我々の使ってるものではすぐ肌が荒れてしまうのでは」
「黒い御髪に似合う髪留めも。ああ、時間が足りませぬぞ陛下」
「どういたしますか、陛下」

さっきまでは真面目に、振り続ける雨を天災とし難しい顔で対策を練っていたというのに、保護されたと知るや否やそんなことを気にしている。呆れた顔で見つめる陛下の前で更なる議論が続く。

「食事は如何するか。我々と同じものを食べれるのだろうか」
「文献ではそうですが、はるか昔のことです。食生活も変わってしまっているので好みのものがあるといいのですが」
「また潤滑油も用意せねば。香り良く馴染みやすいものを。丁寧に扱わなければ」
「おお、そうです。陛下、傷付いてしまわぬようよおく慣らすのですよ」

年寄りの高官に言われ、内心眉を寄せる。
だんだんとヒートアップする話。そもそもとしてアマネがそのアマネの役割を受けてくれるのかという話だ。
勝手に盛り上がっているが、国のために交れなんて話、馬鹿らしい。とはいえ国王としてそれを強いなければいけない立場だ。

「どうなさいますか」

声を潜めて尋ねてくる宰相。

ーーどう、するか。

何を準備するか。王都に着いた夜に全てを奪うのか。

「アマネが望む願いは叶えよ」

今夜でなくともいずれ奪うことになる。
ならばなるべく願いを叶えるのが、神に尽くすことになる。金品でも何でも望むものは与えるべきだ。

はじめこそアマネという存在に怒りを覚えた。ここまで築き上げたものをアマネが王宮に現れないだけで手のひら返され崩されるところだった。
今は違う。

「哀れだ」

ーー神とは、哀れな生き物だ。

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