『プロデューサー』が結婚するらしい

この噂は瞬く間にES中を駆け巡った。
夢ノ咲学園出身で勝利の女神とも言われた実力あるプロデューサーが、遂に結婚するらしい。
学園にいた頃の彼女は、右も左もわからない状態から必死に食らいついて実力を掴んできたし、ESが設立されてからは、今まで以上に休みなく働いていたことを誰もが知っている。
そんな中突然降ってきた結婚の噂。
相手はわからないが、みんなESの関係者ではないのかと考えている。

ここにいる衣更真緒も勿論そう考える1人で。

「マジかよ…」

直接自分でプロデューサーが結婚情報誌を購入している瞬間を目撃したのに、まだ実感が湧かない。
彼女が転校生として学園にやってきてからは、Trickstarとして一緒に大きく成長してきたし、自分で言うのもなんだが、かなりわかりやすくアプローチしてきたつもりだった。
告白をしていなかったのは、彼女のことを考えての行動だ。
常にプロデューサーとしての自分の立ち位置だとか、俺たちアイドルのことを最優先して考えてきた彼女に、一方的な気持ちを押し付けるのは迷惑にしかならない。
そう思って、せめて男として意識してもらえるように頑張ってきたのに。
よりによって、仕事が忙しく普段より少し会えない時間が長引いてしまったタイミングで、気づいたら"そういう展開"になってたらしい。
一体いつ彼女に悪い虫が付いたんだ!
同じ生徒会のよしみで忍者の末裔でもある仙石に、それとなく探ってもらったが「わからないでござる…」と返事が返ってきた。

本当に結婚しちまうのか?
俺たち、Trickstarにも言ってくれないことが歯痒い。
彼女にとって仲がいい、気を許されてると思ってたのは俺だけだったのか…?

悶々と思考を巡らせながらスタプロの事務所に向かって歩いていると、後ろからよく知っている足音が近づいてきた。
パタパタパタ…
いつもは会いたくて会いたくて仕方がないのに、今だけは一番会いたくない人物が俺に声をかける。
「衣更くん、やっと見つけた!」
「おう、どうしたんだ?」
つとめて何もないような顔を作り、笑顔で応える。
なぁ、お前は誰のモノになっちまうんだ?
知ってるやつでも知らないやつでも許せそうに無いな…と思い、鼻の奥がツンとした。
俺が頭の中で逡巡している間も彼女はずっと話していたようで、「でね、この仕事衣更くんにお願いしたいと思って!」とキラキラした目を向けてきた。
もしかしたら彼女にプロデュースしてもらうのもこれで最後になるかも知れないと思い、大して聞いていなかったが「俺で良ければいいぜ」と了承の返事をする。
「本当!?衣更くんありがとう!あ、そうだこれ。よかったら参考にして!」
嬉しそうな彼女から手渡された結婚情報誌を見て、俺の思考はフリーズした。
「アレ…?お前これ…本屋で……」
「本屋…?あぁ、3日前に本屋さんで見つけて次の企画の参考になりそうだなぁって思って買ったんだけど、衣更くんいたの?」

つまり、全て俺の勘違いだったってわけで…

「ちょっといいか?」
瞬間、俺は彼女の了承を得る前に、腕を掴んで空いてる会議室に引き入れた。
何が起こったかわからず、キョトンとしている彼女の両脇に手をつく。

「好きだ」

暗転、もしくは晴天
(勝利の女神は俺に微笑んでくれるか?)




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