ウワサの天女様(1/6)




 
 
 
――チュンチュン、




『…………』





おはようございます、坂吉卑弥子です。





とりあえず一言言いたい。





うるさかった。





ここの霊めっちゃうるさかった。





マ、ジ、で、うるさかった。





全然来ないわーいと思いきや、あいつら夜中に来やがった。



もうマジ何なの。忍者のゴールデンタイムとか知らねぇよ!迷惑だよ!こちとら睡眠のゴールデンタイムなんだよボケ!お陰様で美容もクソったれもないわ!





時は遡り、塩を盛り眠りにつくまで音沙汰のなかった霊共。ところがどっこい、奴らは夜行性だったらしい。





―――なんという静寂、





布団の中、私はそう思った。



神隠しに遭ったのに、何気にリラックス出来ている自分に驚く。実は意外と神経図太いのかもしれない。



そんなポルターガイストのない心地良い静寂の中、初めての安眠を期待し、夢の中へと、





「塩どけろ小娘ェェェッ!!」






旅立つ事はなかった。






以前と同じように入り口や窓から、これに追加された床下や天井という忍者スポットからも部屋に入れろと囁かれる。



いや、囁く奴はいなかった。



怒鳴られ貶され罵られた。



不細工やら根暗やら散々言われたが、それはよく言われるので別にいい。しかし、一つどうにも納得がいかないワードがあった。



何で霊共が貧乳って知ってんだよ。



覗きか?覗いたのか?私の風呂を覗いたのか?そうなのか?



よし、次に貧乳とか言う霊見つけたら塩投げつけてやる。



そう心に決め、眠い目を擦りながら布団から起き上がった。









* * *









 
もっと万能な塩が欲しい。



いや、ほんと、切実に。



私は、皿に盛った塩をサラサラと袋に戻す。チラリと袋の表面に視線が落ちる。




“コレで安眠ばっちり!盛り塩専用強力お塩!もりもり君”




嘘じゃねぇか。



あのババア、ぼったくりやがったな。



この塩を買ったのは、ある意味運命的だった。



私が塩を買うはめになったのは中学校の卒業式の前日で、神隠しに遭ったのは無事中学校を卒業して、明日から春休みになるという帰り道だった。



その日、偶然横切った黒猫の尻尾を踏み、怒った黒猫に足を引っ掻かれ転んだ。そして運良くチャック全開だった鞄から中身をぶちまけた。うん、本日も絶好調。



……なんて思いつつ、ぶちまけた携帯やらポーチやらを拾い鞄へと戻す。後は携帯している塩と盛り塩用の皿のみ。大事な大事な塩を探し、私が視線をズラすと道路の方に転がっていた。



が、数秒後、トラックに引かれて粉砕した。



『…………』



ウ 、ソ 、ダ 、ロ!



転んだ恥ずかしさなど吹き飛んで、絶望に近いショックを受けていると、声を掛けられハッとする。



「お嬢ちゃん、良い塩欲しくないかい?」



明らかに怪しい婆さんだったけど、手元に塩がないのは不安過ぎる。家に帰ればお小遣いで買い溜めた塩が何キロもあるが、この婆さんは“良い塩”と言ったのだ。



色々話を聞いていると、この“コレで安眠ばっちり!盛り塩専用強力お塩!もりもり君”はもの凄いご利益がある塩で、滅多に市場に出回らない代物らしい。



「今なら神に近い男と言われている和尚が自ら作った有り難い盛り皿を二十枚もサービスして、なんと破格の一万九千八百円だよ」

『キャッシュで』



あの時は即決してしまったが、あれ絶対詐欺だろ。モロバレな詐欺だろ。



けど、本当にその晩は霊の襲撃がなかったんだよね。一階のドアがバタンバタン開閉したりピンポンが鳴ったりしていつも通り安眠は出来なかったけど、霊のお小言は一回も聞こえなかった。


 
卑弥子は、もう一度袋の文面に視線を落とした。



“コレで安眠ばっちり!盛り塩専用強力お塩!もりもり君”






…………ん?




よくよく見て見ると、蟻ぐらい小さな文字が商品名の下に書かれている。





“※効果は初回限定ですので、定期購入コースをお勧めします。毎日取り替えて、良い安眠を手に入れて下さい。ご予約はこちらから△△△”










ふざけんなァァァァァッ!!!



つーことは、これただの塩か!いつもの塩か!いっつもワンコイン(五百円玉)で買ってるただの塩かァァァァア!!!



よく見りゃ皿もただの皿だよ!裏返してみたら百均の値札シール付いてるよ!三枚で百円とか書いとるやないか!!



いちきゅっぱ畜生ォォォオッ!!








「ねーねー、」



私がもりもり君の袋を握り締めていると、背後から声を掛けられた。



昨日の担当とか言っていた忍者達がまた来たのか、と後ろを振り向いた。



『…………………』



目が合ったのは、昨日この部屋でくつろいでいた霊だった。




 








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