「………五回」
「ん?兵助なんか言った?」
「いや、何も」
しまった。
つい声が出てしまった。
「そう?」と特に気にも留めずに教科書へと視線を移した勘右衛門を横目に、俺は再び窓の外を見つめた。
あ、また転んで蛸壺に落ちた。
最近日課になりつつある、とある人物の観察。
別に彼女が好みだとか一目惚れだとか、そういう気になる対象という訳ではない。
そう、単なる暇潰しである。
* * *
「ちょちょちょ聞いて聞いて!!!兵助が恋煩いしてる!兵助が!あの兵助が!!」
バタバタと忍者らしからぬ足音を立てて走って来た勘右衛門に、みんなが振り返る。
「豆腐しか興味ない兵助がか?」
「それ勘違いじゃなくて?」
「その話面白そうだな。詳しく話せ勘右衛門」
いつもなら授業終わりに兵助と一緒にやって来るはずの勘右衛門が、一人で俺たちの溜まり場に現れたと思ったらこの騒ぎだ。
色恋に全くもって興味がなく、豆腐のみをこよなく愛する兵助が恋煩い?かなりの高確率で信憑性はないな。
「みんな信じてないでしょ!さっきも教室の窓をポケーッと見てたんだよ?最近振られたハチが告って失敗する前のタエちゃんに思いを寄せる表情にそっくりだったもん!」
「俺の振られた情報いる?!!」
「まあハチに春は当分来ないな」
「やっぱり振られたんだね」
「チクショオオオ!!!」
何でバレてんだよ!タエちゃんに惚れてたのも最近振られたのもコイツらには言ってねぇのに!!くっそ!!さすが忍者だな………って、くっそ!!
「とりあえず兵助に探りを入れよう。まずはそこからだ」
「そうだね」
「そうしよそうしよ!俺兵助の恋なら全力で応援しちゃうよ!」
何なんだこの差は。確かにみんなに隠してた俺も俺だけど、俺と兵助とのこの差は何なんだ。くっそ!!タエちゃんにも「竹谷とか無理。あたし久々知君がタイプだから」って振られたしな!これが顔面偏差値の差ってやつか………って、くっそ!!
俺は目からホロリと流れる汗という名の涙を拭い、楽しげな同学年たちについて行った。
* * *
「…………」
うん、なんか痛そう。
休憩時間、いつもなら溜まり場へ向かって勘右衛門や八左ヱ門、三郎に雷蔵たちと他愛ない話をしているのだが、今日は行くのをやめた。
特に意味はないが、何となく“暇潰し”の方を続けている。
彼女が七回目の蛸壺に落ちてからの連鎖がなかなか見物だった。
蛸壺から数分かけてよじ登って来た直後にバレーボールが顔面に直撃し落下。そして数分後、再び蛸壺をよじ登ったところでバレーボールを探しに走って来た七松先輩に手を踏まれ落下。さらに数分後、ようやく蛸壺から脱出するものの数歩進んだ先にあった別の蛸壺に落下した。
何というか、不運委員会の善法寺先輩とは別の意味で凄いと思う。いやむしろ芸術的なナニかのような気がする。
そういえば、この前は普通に三郎が彼女を踏んで通り過ぎて行った気がする。あの三郎が気づかないなんて、やはり彼女は芸術的なナニかのような気がする。
なんだかレポートにしたい気分だ。
俺は、ふらふらと食堂へと向かう彼女の背中を見送った。
* * *
「……ねぇ、もしかしてさ、いやもしかしなくてもさ、兵助が見てるのってアレ?」
「……苗字名前とかいう未来から来たとほざく女か」
「じゃ、じゃあ兵助の恋煩いの相手って………」
「あの事務員の?」
あれから兵助を探してキャッキャと盛り上がっていた俺たちは、まさかの事実で一気にクールダウンした。それはもう氷点下レベルで。
「……さて、次の授業の準備でもしよーっと」
「確か町で課題だったよね」
「ああ、合同授業だったはずだ」
「じゃあさ、帰りにみんなで団子でも食べない?」
「賛成」
みんな冷めんの早っ!!!
かく言う俺も、兵助の恋路なんかより自分の成績の方が大事だ。兵助なら女なんてイチコロだろ?どうせイチコロだろ?俺と違ってモテるしな!兵助モテモテだもんな!だってタエちゃんのタイプだしな!………って、くっそ!!
こうして、今日の俺たちの暇潰しはあっという間に終わった。とりあえず鐘が鳴るまでに、次の授業の準備するか。
暇潰しチラリズム
(あ、来た来た!)
(ハチお疲れ!)
(お疲れー……って、あれ?)
(どうした?)
(あそこの茶屋……)
豆腐ヒーローまであと数分
―――――キリトリ―――――
華ゑ流様!
お待たせ致しました!リクエストの五年のギャグ話です!そしてすいません!ギャグ要素薄い上に夢主ちゃんが空気というか名前変換の意味が全く無い作品になってしまいました(泣)さすが不運少女……(すいません言い訳です土下座×100)
この度はリクエストありがとうございました!私生活等大変と思いますがサイト運営頑張って下さいね(*^^*)応援しております!
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