たんぽぽ (2)

 
 
 
『あ、鉢屋君!』



少し大きめの岩の上に寝転がる鉢屋君を見つけ、わたしはタタタッと駆け寄った。



「………またお前か」

『うん、そうだよ』



にこにこと笑うと、鉢屋君も少し釣られて表情が緩んだ。



それを見たわたしは、嬉しくてもっと口角が上がった。



『はい、タンポポあげる!』



そう言って一輪のタンポポを差し出すと、受け取ってくれた。



「………ありがと」

『うん!じゃあね!』



わたしはこれだけで満足。



くの一教室に帰る足取りは、とってもとっても軽かった。











わたしは、鉢屋君が大好き!



きっかけはもう忘れちゃったけど、大好きな事は変わらないからいいの!



初めはくのたまって事で警戒されたし、タンポポも直接受け取って貰えなかった。



だけど、だんだん警戒されなくなって、タンポポも直接受け取ってくれる様になって、表情も優しくなった。







たったそれだけの事だけど、わたしは十分幸せ!







この忍術学園に来て良かった!



鉢屋君を好きになれて良かった!









* * *










太陽さんさん、ポッカポカ!



風はふわふわ、いい気持ち!



みんなニコニコ、楽しそう!






わたしは、屋根の上で学園を眺めていた。



耳をすませば、サッカーで遊ぶ楽しそうな声やお喋りする楽しそうな声、みんなの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。





ふふふ、聞こえてるだけのわたしも楽しくなってくる。




本当に素敵な場所!




わたしの大好きな場所!







ちょっぴり悪戯なくのたまも、



個性いっぱいの忍たま達も、



優しくて厳しい先生達も、







みんなみんな大好き!




わたしに、たくさんの笑顔をくれて本当にありがとう!











―――――ブワッ!!




『わっ……』


 
一瞬、物凄い強風が吹き、わたしにバサッと布が飛んできた。



『な、何?………頭巾?』



飛んで来たのは群青色の頭巾で、すぐ屋根に一人の忍たまが登って来た。



彼は申し訳なさそうに近付いて来た。



「ごっごめんね?頭巾拾ってくれてありがとう。あ、僕は…」

『不破君でしょ?鉢屋君と同じ顔だから知ってるよ』



わたしは、不破君が自己紹介する前に言い当ててみせる。



「三郎の知り合い、で、あってるかな?」

『ううん、わたしの一方通行だから違うよ』



不破君はわたしの返事を疑問に思ったらしく、「一方通行?」と呟きながら、うーんうーんと考え始めた。



……よし、話題を変えよう。







『明日五年生は午後から戦の任務でしょ?頑張ってね』

「あれ、なんで知ってるの?」

『わたしも行くから』

「そうなんだ、一緒に頑張ろうね!」

『うん!絶対成功させるね!』

「?え、あ、そうだね」



わたしは何か言いたげな不破君に「じゃあね」と手を振り、ひょいっと屋根から飛び降りた。



「そういえば、よく僕と三郎の見分けがついたな。あ、名前聞くの忘れちゃった」



雷蔵の呟いた言葉は、ふわりと吹いた風に飛ばされていった。



 


 
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