『あ、鉢屋君!』
少し大きめの岩の上に寝転がる鉢屋君を見つけ、わたしはタタタッと駆け寄った。
「………またお前か」
『うん、そうだよ』
にこにこと笑うと、鉢屋君も少し釣られて表情が緩んだ。
それを見たわたしは、嬉しくてもっと口角が上がった。
『はい、タンポポあげる!』
そう言って一輪のタンポポを差し出すと、受け取ってくれた。
「………ありがと」
『うん!じゃあね!』
わたしはこれだけで満足。
くの一教室に帰る足取りは、とってもとっても軽かった。
わたしは、鉢屋君が大好き!
きっかけはもう忘れちゃったけど、大好きな事は変わらないからいいの!
初めはくのたまって事で警戒されたし、タンポポも直接受け取って貰えなかった。
だけど、だんだん警戒されなくなって、タンポポも直接受け取ってくれる様になって、表情も優しくなった。
たったそれだけの事だけど、わたしは十分幸せ!
この忍術学園に来て良かった!
鉢屋君を好きになれて良かった!
* * *
太陽さんさん、ポッカポカ!
風はふわふわ、いい気持ち!
みんなニコニコ、楽しそう!
わたしは、屋根の上で学園を眺めていた。
耳をすませば、サッカーで遊ぶ楽しそうな声やお喋りする楽しそうな声、みんなの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ふふふ、聞こえてるだけのわたしも楽しくなってくる。
本当に素敵な場所!
わたしの大好きな場所!
ちょっぴり悪戯なくのたまも、
個性いっぱいの忍たま達も、
優しくて厳しい先生達も、
みんなみんな大好き!
わたしに、たくさんの笑顔をくれて本当にありがとう!
―――――ブワッ!!
『わっ……』
一瞬、物凄い強風が吹き、わたしにバサッと布が飛んできた。
『な、何?………頭巾?』
飛んで来たのは群青色の頭巾で、すぐ屋根に一人の忍たまが登って来た。
彼は申し訳なさそうに近付いて来た。
「ごっごめんね?頭巾拾ってくれてありがとう。あ、僕は…」
『不破君でしょ?鉢屋君と同じ顔だから知ってるよ』
わたしは、不破君が自己紹介する前に言い当ててみせる。
「三郎の知り合い、で、あってるかな?」
『ううん、わたしの一方通行だから違うよ』
不破君はわたしの返事を疑問に思ったらしく、「一方通行?」と呟きながら、うーんうーんと考え始めた。
……よし、話題を変えよう。
『明日五年生は午後から戦の任務でしょ?頑張ってね』
「あれ、なんで知ってるの?」
『わたしも行くから』
「そうなんだ、一緒に頑張ろうね!」
『うん!絶対成功させるね!』
「?え、あ、そうだね」
わたしは何か言いたげな不破君に「じゃあね」と手を振り、ひょいっと屋根から飛び降りた。
「そういえば、よく僕と三郎の見分けがついたな。あ、名前聞くの忘れちゃった」
雷蔵の呟いた言葉は、ふわりと吹いた風に飛ばされていった。