「何作ってんですかィ?」
『えっ!きゃ!』
沖田が調理場を覗くと、名前が慌てて何かを隠した。
「今更遅いでさァ。どーせバレンタインのチョコでも作ってたんだろ?」
何を隠そう、明日はチョコレートが飛び交うバレンタインデー。
「ホワイトチョコか、見なかった事にしやすから明日は安心して俺に渡しなせェ」
『たっ隊長のじゃないもん!』
沖田はチッと軽く舌打ちをし、去ろうとするがピタリと足が止まる。
「……にしても、チョコにしちゃあ酸っペェ匂いだな」
チョコレートを作っているはずなのに甘い匂いがしない。
『当たり前じゃないですか、これチョコレートじゃありません!』
「………は?」
『マヨネーズです』
そう、名前が作っていたのは手作りマヨネーズ。
「チッ…土方コノヤローに渡すやつですかィ」
『なっ…なんでそれを!!』
「マヨ見りゃ分かるだろィ」
名前がモジモジと沖田に近付く。
『あの隊長、この事は…』
「あーあ、なんか巨大チョコレートケーキが食いたいなァァァァ!」
『隊長には大きいチョコレートを作る予定でしたマジで、ハイすいません』
「いやー悪いねェ、とりあえず見なかった事にしまさァ」
* * *
『はい、これが山崎さんの』
「…嬉しいよウン、たとえ天と地の差でも」
名前と山崎が横を見ると、どでかいチョコレートケーキが入った箱を持っている沖田が隊士共にわざとらしく見せている。
『ホントは均等だったんですけど、昨日の夜……』
「うん沖田隊長の事だから、言わなくても大体分かるよ」
『あはは……、すいません』
隊士全員にチョコレートを配り終えていて、名前はすでに手ぶらの状態。
「俺たちはいいけど、副長にもコレあげたの?」
『その辺に抜かりはありません。今日は年に1度の乙女の恋愛イベントですから』
「じゃあ1番に渡したんだ?」
『……部屋にいない間に置いてきました』
「ちょっと名前ちゃん、そこは直接本人に渡すべきでしょ」
『むむむ無理無理っ!だだだだってだって、は……恥ずかしいんだもんっ!』
名前が、顔を真っ赤にしながら山崎と話していると背後に気配を感じる。
「何の騒ぎだ?」
土方が煙草を片手に立っていた。
『っ!!!』
「あ、副長どこに行ってたんですか?」
「ああ、予備の煙草を買いに」
土方がチラッと名前を見る。
「苗字、お前顔赤いぞ?」
『じゅっ…巡回行って来ます!』
名前が猛ダッシュで走り去る。
「?」
土方がハテナマークを出していると、沖田が近寄ってきた。
「これはこれはクールな二枚目の土方さんじゃないですか」
沖田がよっこらせと箱を床に置く。
「オイ総悟、なんだその箱」
「チョコレートでさァ、今日バレンタインデーですぜィ?」
沖田が箱をポンポンと叩く。
「やっぱり、これだけデケェと愛の大きさが分かるってもんでさァ」
「…くだらねェ」
土方が自室へ向かおうと去ろうとした時に、沖田がニヤリと笑う。
「こんなデカいのくれた名前にはホワイトデーに何渡そっかなー。な、山崎」
「そうですね、確か名前ちゃん花の簪が欲しいって言ってましたねー」
沖田と山崎は去っていく土方に聞こえるように呟き、様子を伺う。
「行くぞ山崎」
「はい」
2人が尾行していると、土方が自分の部屋の前で立ち止まる。
「あれ絶対期待してますよ」
「呟き作戦は成功だな」
しばらく固まっていた土方が、勢い良く襖を開けて部屋へ入った。
沖田と山崎も急いで近づき、こっそりと覗いた。
すると、土方が机に置かれた名前の手作りマヨネーズを片手に持ち、メッセージカードを読んでいた。
その表情は、心なしかニヤついている。
「…よし、ネタゲット」
土方のニヤつきをネタに、沖田が部屋へ入っていく。
いつものようにギャーギャー騒ぎ出す2人を横目に、山崎は名前から貰った1円サイズのチョコレートを口へ運んだ。
「………うまい」
マヨに愛を込めて
(山崎さん見て見てー!)
(どうしたの名前ちゃん)
(副長がお返しくれたの!)
(良かったじゃん)
(私、花の簪欲しかったから
すっごく嬉しい!)
とてつもなく焦れったい二人
(山崎さん見て見てー!)
(どうしたの名前ちゃん)
(副長がお返しくれたの!)
(良かったじゃん)
(私、花の簪欲しかったから
すっごく嬉しい!)
とてつもなく焦れったい二人