「放てっ!!!」
シュンシュンッ――
放たれた火の矢は、あっという間に敵陣を火の海に変えた。
『す…、すごい…』
コソコソと身を隠しながら戦場を観察する少女。
彼女は名前、孫家四兄弟の末っ子である。
姉の尚香に比べ気弱でおとなしい性格で、戦場に出陣したことは一度もない。
その訳は、四兄弟の中で1番の頭脳の持ち主であり、軍師に興味を持っているのだが……。
『陸遜さまの火計、火薬の配置といいタイミングといい……なんて素晴らしいのかしら!』
人一倍、いや二倍ぐらい弱いため全く戦力にならないのである。
* * *
『お帰りなさい陸遜さま!』
陸遜の火計により、見事勝利した呉軍の兵士達が帰還してきた。
名前は真っ先に陸孫の元へと駆け寄った。
「……姫様。今回の戦、こっそり尾行なされてましたね?」
『はいっ!さっきの火計お見事でした!ぜひ詳しく教えて下さい!』
「……また言いつけを破って戦場に忍び込んだのですね」
『し……しまった』
名前はその弱さ故、父は勿論兄や姉からも戦場に近付くことを禁じられていた。
そんな名前にとって陸遜は、軍師として戦士として強い憧れの存在だった。
『り…陸遜さま、この事は…』
「まだ誰にも口外しておりません」
近くにいた兄の孫策に聞こえないように、陸遜を移動させた名前。
このお忍びは、何故かいつも陸遜にバレてしまっている。
「全く…、忍び込むという事は姫様ご自身を守る者がいないという事なのですよ?」
『…ごめん…なさい』
でも、実はちゃんと知っているんです。
「先程の火計については詳しく説明致しますが、もう勝手に戦場へ来るのは…」
毎回バレてしまっているお忍びの事を絶対口外しない事も。
「姫様、聞いてますか?」
私が隠れいる付近の守備をさりげなく強化してくれている事も。
『分かったわ!次はもっと上手く忍び込みます!』
陸遜さまが強くて賢くて、すっごく優しい素敵な方って事も。
「そういう事ではなくて…」
『あっ!それより陸遜さま、私が今考えている策が……きゃっ!!』
「…うわっ!!」
どしゃんっ!!!!!
「……今考えているのは何ですか?名前様?」
『……落とし穴…です』
われらは策略家
(…陸遜さま!今…名前を…)
(なんです姫様?)
(な……何でもないです)
(それより見事に落ちましたね)
(…もう落ちてます)
(………?)
あなたという落とし穴に
(…陸遜さま!今…名前を…)
(なんです姫様?)
(な……何でもないです)
(それより見事に落ちましたね)
(…もう落ちてます)
(………?)
あなたという落とし穴に