観念した様子のフィアス。
面倒だという気持ちはよくわかるが、エトワルトの陰謀を警戒するなら、団員達の士気を保つべきだ。戦闘に巻き込まれた場合、士気が低く疲労した状態では簡単に討たれてしまう。
そうでなくても、どのような事態に陥るかわからない現状。高い状態の士気を保っておかなければ、迅速で臨機応変な対応など出来はしない。



「さて、メシも食ったことだし、俺ァ少し仮眠でもとるとする」
「おーやまー、食べてすぐに寝ると太りますよー」
「言ってろ」



フィアスの軽口は適当に受け流し、煙草に火を点けて大きく煙を吸い込む。

俺達が食べ終えたのを察した当番の団員達が、さり気なく食器を下げていく。
それに感謝の言葉を述べるフィアスとほぼ同時に立ち上がり、俺達はそれぞれ部屋に引き返すことにした。



「テメエはこの後どうすんだ」
「そうですねー、暫く休憩してから鍛錬でもしようかなーと」
「そうか」



櫓からの見張りは動きが少ないため、体が鈍るのだろうか。
久々に手合わせするのも面白そうだが、最近は睡眠時間が少なく寝不足気味のため、仮眠を優先した。

互いに部屋の前に辿り着き、扉に手をかける。俺はふと思い出したことがあるため、フィアスに向かって口を開いた。



「そう言やァ、テメエに渡した分の報告書をまだ受け取ってなかったな。さっさと纏めておきてえから、今日中に俺の部屋に置いといてくれ」



用件を伝え、俺は部屋の中へ入る。

フィアスに頼んであるのは報告書の原型の作成と、その他必須書類の必要事項の記入。
調査内容は俺が纏めているのだが、フィアスに頼んだ書類が出来ていなければ、報告書の作成はおろか提出すらままならない。
そんなものを忘れているわけはない――と甘く見て痛い思いをしたのが、確か前回の遠征……。

今回もってことァ……いや、まさかな。











――結局、ヤマの兵士が現れないまま一か月が経ち、任務終了期限となった。
何らかの情報が得られるまで、調査期間を延長しろという報告も来ていない。それに特務部隊として従事しなければならない任務はこれだけではない為、期間の延長を言い渡されても困るのだが。

もし以降もヤマの兵士が目撃されるようであれば、いずれはどこかの師団をここに常駐させることになるのだろう。


太陽は傾き、松明が辺りを照らし出す森の中。
俺は周囲に指示を出しながら、いつものように調査に当たっていた。隣にいるアシュヴィンが、やや拍子抜けしたような表情で俺に声をかける。



「今日一杯でこの調査も終了ですね。結局、何も異変はありませんでしたが」
「ヤマの兵士の方は、だがな。帰路を考えればまだ3日は残ってる。もう一方の問題についてァ、王都に戻るまで気を抜けねえぞ」
「確かに、その通りですね」



神妙な顔で頷くアシュヴィンから視線を逸らし、周囲を見渡しながら、咥えていた煙草の煙を吐き出す。

[*prev] [next#]
[タイトルへ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -