「あれ?そう言えば、アシュヴィンはフィアスに口説かれてないの?」
「ふふふー、私を誰だと思っているのですかアンヘル。勿論、口説いているに決まってるじゃないですかー!」
「威張ることじゃねえだろ」



フィアスの女癖の話に端を発し、アンヘルがそこから新たな話題に広げる。王族とは言え年頃の男、その手の話題に興味があるらしい。
無駄に満面の笑みを浮かべるフィアスに対し、突然話題の中心に移されたアシュヴィンは、気まずそうな表情を浮かべながら乾いた笑い声を発し、頬をポリポリと掻いている。
どうやって話を逸らそうかという思惑が、露骨に態度に出ている。



「ちなみに、バッサリと断られたのですがねー……アシュヴィン、何て言って断ったと思いますー?」
「んなっ!?フフフフィアス団長っ、それは絶対に言わないと約束したではありませんか!!」
「冗談ですよ、じょーだん」
「うーん、何て言ったか気になるなぁ……」
「アンヘル様っ!!」



随分と喰い付きのいいアンヘルを、アシュヴィンは顔を真っ赤にして必死に窘めていた。
自分がフラれた時のことを、こうも面白気に話す奴も珍しいだろう。しかし、はっきり言って俺には興味の欠片もそそられない。

全く以て、フィアスの女好きは理解に苦しむ。
性的な欲求を満たすことが目的という訳でもなく、単に内心をさらけ出すまでの過程を楽しんでいるように見える。そのように他人の内側に踏み込んで、何の得があると言うのか。
そして踏み込まれた者は、こちらの内側にも踏み込んで来ようとする。俺はそれが嫌いだ。

そのような相手を眼前で突っぱねることが、フィアスにとっては楽しいのだろうか?だとしたら、相変わらず悪趣味な奴だ。


まあ、コイツの女癖についてはこれまでも幾度か考察してみたことがあるが、結論はいつも同じ所に行きつく。“俺には理解出来ない”という答えに。
取り敢えず、楽しければそれでいいのだろう。少なくとも、それについては俺も同意出来る。



そんなことを考えているうちに、アシュヴィンが話題を変えることに成功したらしい。剣術の話にアンヘルが喰い付いている。
俺とフィアスもそれに加わり、雑談を交わす。そうこうしながらふと時計に目を移したフィアスに釣られ、俺も同様に視線を移す。二人がこの部屋に来てから1時間以上が経っていた。



「さーてと、雑談はこのくらいにして、今日はそろそろ帰りましょーか」
「そうだね。僕もこれ以上遅くなったら、侍女の人に何言われるかわかったものじゃないし」
「ではー、王宮まで黒騎士団のトップ三人で護衛致しますよー」
「フン、見張りの兵がどんな顔をするだろうな」
「黒騎士団の団長・副団長が勢揃いですからね……」



ここは王都であり、軍本部が設置されているだけあり治安は頗る良い。例え暴漢などに襲われた所で、アンヘルの腕前なら問題ないだろうが、流石に王子を1人で歩かせるわけにはいかない。
それに俺達の住居である宿舎は王宮から程近い。送っていくのもついでで済ませられる距離だ。

見張りの兵の驚く顔を目に浮かべると、どこか滑稽にも思えた。



第1章-終-
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