その様子を見ていたアシュヴィンが、唖然とした様子で口を開いた。



「以前から思ってはいましたが、カイン団長のその……誰に対しても分け隔てなく接する態度は凄いですよね……」
「フン、テメエも皮肉が上手くなったな。しかも俺に対して言いやがるとァ」
「し、失礼致しました!決してそのような意味で申したのでは……」
「いいんだよアシュヴィン。って言うか、僕が敬語は使わなくていいって言ったんだ。アシュヴィンも、僕に気を使わなくたっていいんだからね?」
「い、いえ!?そんな、滅相もありません!」



慌てふためくアシュヴィンに、アンヘルは苦笑を向けていた。

クソ真面目なアシュヴィンの性格からして、王族を呼び捨てにすることは無理な話だろう。まあ、俺は何とも思わねえがな。
と、そんなことはどうでもいい。今肝心なのは、何故コイツらがここにやって来たのか、と言うことだ。


「フィアス」


名前を呼ぶとフィアスは俺の意を理解したらしく、一度頷いた。
コイツがあの時言った「鋭い」と言う言葉……先程の俺達の会話の内容とその対象についてを、フィアスは把握しているということになる。それに加えてコイツがここに出向いて来た理由を想像すれば、結論は一つだ。

フィアスは気の重そうな溜め息を吐きながら髪を掻き上げ、懐から書簡を取り出した。
その気だるげな態度は勿体付けているわけではなく、これから口にする内容に参っているように感じられる。



「では、本題に入りましょうか。私がここに来たのは、貴方達に大事な話があるからです」
「大事な話……ですか?」



アシュヴィンも薄々勘付いているようで、怖々と聞き返す。
フィアスは取り出した書簡を広げ、俺のデスクに広げる。それが何かは、この場の誰もが一目でわかる。国王の署名と押印がされた公文書……今まで何度も見てきた、王からの勅命状だ。
それを見れば、内容など最早読み上げられなくとも察しがつく。表情を曇らせるアシュヴィンと、嘲笑する俺。

フィアスは書簡の内容を読み上げる。



「国王エトワルトより、黒騎士団へ遠征の命を下す。不穏な動きのあるヤマとの国境に赴き、事態の把握及び調査を行え。任務期間は一月、出立は二日後の明朝。尚、今遠征出立時は市中壮行行進を行うものとする……だそうですよー?」
「ケッ、これはこれは……」



読み上げた内容に、アシュヴィンは明確に表情には出さないものの、どこか困惑したような雰囲気を漂わせている。



「それにしても、出立が二日後とは……相変わらず随分と急ですね」
「そうですよねー。前の任務から帰還してまだ一月も経っていませんしー、装備を整えるのも容易じゃありませんよねー」
「仕方がない、としか言えねえな。何せ、長期遠征に耐えられるほどの軍事力と統率力を保ってる騎士団は、今や黒騎士団と白騎士団以外にねえからな」



俺達は “騎士”と関する部隊だが、一般的な意味合いとは違い、騎士道やら格式やらとは無縁だ。単に部隊名を表す記号として、“騎士”という言葉が使われているにすぎない。
主君である国王に献身的だという点では、本来騎士が持つ意味合いが働いているのかもしれないが。

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