「こうして眺める王都の景色は、やはり素晴らしいです。私達が任務で方々を駆けずり回っても、ここは変わることなく平穏で美しい」
「ここが混乱に陥るようなことがありゃァ、そりゃこの国が滅ぶ時だろうな。はは、まァそれはそれで、俺ァ見てみてえがな」
「そうならないように、私達軍人がいるのではありませんか」
「さァて、今の国内情勢は少々不安定にある。敵は外部から攻めてくるか、それとも中から湧き出すか」
「随分不穏なお言葉ですね。……まあ、確かにそれは充分に考慮しておくべき可能性ですが。しかし敵が何であれ、私は……カイン団長と共に戦うだけですよ」



どこか照れたようにそう口にしたアシュヴィンを、俺は鼻で一笑する。善悪を考える前に戦う――成る程、いい考えをするようになってきた。
アシュヴィンが黒騎士団副団長に就任したのは、およそ一年前。正規軍による魔物討伐任務の先遣隊として偵察任務に就いていた俺達は、自らの任務を終え、正規軍の戦いについて文字通り高みの見物を行っていた。その暫く前に、副団長だった男が正規軍の師団長に就任することになって不在になっていた為、人員の選定を行う目的もあった。

そこで目に付いたのが、アシュヴィンだった。若い女兵士で、しかも隻眼だった為に目立っていたと言うのもある。
それ以上に俺達の目を引いたのが、荒削りながらも苛烈な、自分の命をさらけ出す様に戦う姿。それは俺とフィアスの戦い方に通じるものがあり、だからこそ俺達の補佐を行う副団長として抜擢したのだ。
戦闘面以外のことは期待していなかったが、存外にそれ以外の能力も高かったのは僥倖だったわけだが。



時間が経つのは早いものだ、と反芻した記憶に結論付け、煙草を灰皿に捻じ込む。その動作が終わった頃合いを見計らってか、アシュヴィンが口を開いた。



「そう言えば、書類の受理審査を待っている間に耳にしたのですが、ヤマとの国境で警備に当たっている部隊の兵士が慌てた様子で帰還したそうですね」
「ヤマ……国境警備部隊が?きな臭ェな、何があった?」
「私も又聞きですので、詳細も真偽もわかりません。噂では武装したヤマの兵士らしき一団を、最近国境で何度か目撃するようになったらしいのです」


ヤマとの間には、古今において取り立てて目立つ外交問題は無い。友好国という程ではないが、少なくとも敵国には該当しない、可もなく不可もなくといった差し障りのない関係。
そんな中で、何故武装した部隊が国境付近を彷徨くという危険な行動に出ているのか。それが事実なら、開戦する為の口実にすらなると言うのに。

アシュヴィンは小首を傾げ、俺に意見を求めてくる。


「やはり、侵攻してくる気なのでしょうか?」
「さァな。それが賊やらの類なら取るに足らねえが、本物のヤマの部隊なら侵攻の可能性も無くはねえ。しかし、全くと言っていい程ヤマに大義名分がねえ」
「確かに、彼の国の国家形態で各地の軍をヤマの名の元に団結させることは、大義名分無くしては不可能でしょうね」

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