第2章
疑惑と不信




王都出立当日、黒騎士団詰め所はいつもの遠征前以上に慌ただしかった。必要物資の確認を求める声、今日の予定針路の最終確認をする声、出立時間が迫っている旨を伝える声――。
それらを取り仕切るカインの声が、喧噪の中で一際大きく響いている。


何故こんなにも慌ただしいかと言うと、先日伝えられた市中行進に原因がある。
本来なら正規軍がメインで行われる市中行進を、私達騎士団が単独で行う。しかも通達からの日が短く、遠征の準備と並行しての作業だ。時間も足りず、慣れないことの準備で全員が手一杯な状況だ。

特にカインは、朝からずっと険しい顔をしている。ただでさえ悪い人相が、今や子供が見たら一発で泣き出しそうな程の極悪人顔になっている。
恐らく彼の性格からして、今回の市中行進の裏を探っているのだろう。私も最初からこの行動に疑問を感じているのだ、彼ならば言わずもがなという所か。


私はカインの側へ歩み寄り、その肩に腕を乗せながらヘラヘラと軽い笑みを浮かべる。



「考えすぎるのは良くないですよー?」
「……フィアス」
「確かに、あのエトワルトのことですから何か裏があるのかもしれませんがー……今の私達は軍人ですよー?気付いた所で、市中行進を止めるわけにはいかないでしょー」
「まァ、そりゃァそうだ」



頭をガシガシと掻き、やれやれと言った様子で溜め息を吐くカイン。私の腕を払い退け、新しく咥えた煙草に火を点けると、準備を急ぐ団員達の方に視線を戻す。
私はそれに満面の笑みを向け、親指を立てた。



「と言うわけでー、私達に出来ることは一つ!市中行進によって、私達の魅力を女性達に伝えることですよねー!」
「流石は馬鹿……勝手にやってろ……」
「えー?私だけでやったら、王都中の女性が私の虜になっちゃいますけどー?」
「望むところだろ?」
「あっはー、確かにそれは好ましい状況ですね!ですが、それだと私を巡って女性達が争うことに……うむーん?」



私に魅了された女性達が、私という一人の為に、その美しい顔を歪めて争う……確かに嬉しいんですが、そんな姿を見たくないのもまた事実。モテるってのも辛いですよねー……ああ、なんと罪作りな男なのでしょう、私はっ!

私が思考に没頭している側で、カインが甲冑を着込んでいるのが見えた。それを見て、私も渋々ながら甲冑を身に着け始める。
この甲冑は式典、儀礼用に作られた物の為、装飾は豪華だが機能性は無いに等しい。飽くまでもこうした場でのみ運用されるもので、とても戦場では使い物にはならない。



「団長、全団員準備が整いました」


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