私には超絶かっこいい彼氏がいる。一つ上の三ツ谷隆先輩だ。東卍の隊長で喧嘩強くて、でも優しくてカッコ良くって学校では手芸部の部長なんてやってる人望の厚い人。そんなタカちゃんが私を選んでくれていつも優しくしてくれるなんて夢みたいな話だ。私は間違いなく贅沢者だ。…分かっているのに、最近不満は募っている。


「タカちゃん!今日は一緒に帰れる?」
「あー…わり、部活だ」
「またぁ?」
「作品展前なんだよ、ごめんな」

そう言って頭を撫で撫でしてくれるタカちゃん、好き。…じゃなくって、気づけば先週から数えても一緒に帰れたの一回だけなんですけど!

「部活終わるの待ってていい?」
「でも遅くなるよ?オレ部長だから部室の鍵閉めたりとかもあるし」
「いい。宿題して待ってる。終わったらメールして。そっち行くから」
「分かった。ありがとな、名前」

本当は待ってたくないけど。部活してる時間を私に当ててほしいけど。でもタカちゃんは頑張ってる。部長としても隊長としても兄としても。文句言わずにやってるのが大人でかっこいいと思う。だから邪魔したくはないんだ。



放課後、宿題も終わって珍しく明日の予習なんかもしていたらあっという間にタカちゃんの部活が終わる時間になっていた。タカちゃんからメールが来てスキップしながら手芸部の部室に向かう。

「たーかちゃんっ」
「おー名前。もうちょっとやることあるから中入って待ってなよ」
「…いいの?私部員じゃないのに」
「いいよ、名前は特別」

特別って言われただけで単純な私の心は浮かれた。他の部員はみんなもう帰っていて部室内はタカちゃんと部員じゃない私だけ。私この人の彼女だから特別なんですって優越感に浸ってしまう。

「作品はもう完成したの?」
「んーまだ。今日もさ、みんなの作品見て回ってたら自分のやる時間ほぼなくて」
「えータカちゃん先生じゃなくて部長なのにそこまでする必要あるぅ?」
「でもさ頼られると嬉しいんだよね」
「ふーん…」

手芸部はタカちゃん以外女子ばかりだ。私がタカちゃんに会えない時間が他の女子な充てがわれている。ずっと心にうっすらとあったモヤモヤ、タカちゃんの口から直接聞かされるとそのモヤモヤが濃くなっていく。

「今日もさ山田さん、わかるだろ?お前のクラスにいる。あの子がさ、めっちゃミスっててすんげー慌ててさ。部長助けてくださいー!って半泣きでさ。オレもつきっきりで必死で修復手伝ったんだ」
「そう…」

山田さんて、あの地味そうな子。大して話したことないけど。私がタカちゃんに会えないで一人で待っていた間、あの子がタカちゃんを独占状態だったってこと?ていうかそもそもここ最近はあの子の方が私よりタカちゃんと過ごしていた時間多いんじゃない?タカちゃんも私の顔を見てる時間より、布やミシン見てる時間の方が最近絶対多いよね?

え、無理。なにこれ。私彼女なのに。タカちゃん、私が一番大事って言ってくれてたのに。

「名前?どうした?」

作りかけの作品を袋にしまおうとしているタカちゃん。家に持ち帰ってでもやろうとしているのかな。私と電話やメールする時間より、裁縫する時間かよ。

無意識的に私はその作りかけの作品を力一杯引っ張っていた。ミシンで綺麗に縫い合わされていた箇所がブチブチと音を立てて引き裂かれていく。

「…は?おい!名前テメェ何してんだよ!?」

少し引っ張ってぐしゃっとしてやろうと思っただけだった。まさかこんな壊すような真似したいわけじゃなかった。怒鳴ってくるタカちゃんに怯えながらも、恐る恐る自分の不満を口にした。

「だって…タカちゃん部活部活でぜんっぜん私との時間作ってくれないんだもん!」
「だからってなぁ、人が作ってるもんに手ェ出すのかよ!」
「それは…!…その、ごめんなさい。でも…山田さんとか他の女子とはいるのに私といてくれないなんて酷いじゃん!」
「はぁ?それは部活の一環で、」
「部活でもなんでも!タカちゃん私のこと一番好きだって、大事だって言ってくれたのに最近全然私のこと見てくれてないじゃん!」
「名前、お前さぁガキじゃねんだからさぁ」
「ガキだよ!私はこんな奴なの!もういいよ!バイバイ!」

言いたいことだけ言って、走るように逃げ去った私はとんでもなく卑怯者だと思う。普段は廊下を走る生徒を注意する先生も、私の泣き顔を見たからか何も言わず道を開けてくれた。

終わった。本当にもう終わった。大好きだったのに、ずっとずっと片想いしてやっと付き合えたのに。その幸せを自ら手放すなんて。私の大馬鹿者。



その晩、何回も携帯が鳴ったけど出る気にはなれない。あんな酷いことしてタカちゃんは絶対怒っている、または呆れている。自分でバイバイとか言っちゃったけど、でも彼の口から「別れよ」と言われるのはとにかく怖かった。

次の日もその次の日も、タカちゃんは部活の日だ。作品展までもう時間はないと言っていたし。なのに私、あんなことしちゃって…作品展までに間に合うかなぁとふと心配になった。でもそれでも、鳴り続ける携帯を耳に当てることは出来なかった。




「名字さん、部長来てるよ」

帰りのホームルームが終わった直後、そう声をかけてきたのはあの山田さんだった。廊下を見ると、うちの教室のドアに寄りかかっているタカちゃんの背中が見えた。

「山田さんに用なんじゃないの?」
「ううん、名字さん呼んでって言われたの」
「…そう。じゃあいないって言っておいて」

鞄を掴み、タカちゃんがいない方のドアから廊下に出た。それに気づいたタカちゃんは私の名前を呼びながら追いかけて来た。え、うそ、来ないでよ。自然と早歩きになり、駆け足になっていく私の足。それを上回る速さで追いかけてくるタカちゃん。先生が「廊下を走るな!」と怒鳴ってきたところでタカちゃんは私の腕を掴み、先生に「すんません」と一言謝ってからそこにある空き教室に私を連れて行った。

「離して…!」
「じゃあ電話無視すんな」
「やだやだ、話したくない!」
「名前聞けって」
「聞かない!もう…バイバイって、私言ったじゃん……」
「あー?んなの聞いてねぇよ」

タカちゃんは床に座った後、私の腕を引っ張り自分の膝の上に座らせた。こんな近くでタカちゃんの顔見たの、いつぶりだろう。

「バイバイなんてしねぇぞ」
「え…?」
「ごめんな名前。寂しかったよな、ずっと」
「…えっ?」
「名前いつもニコニコしてオレに何の不満も言ってこねぇからさ、オレも気緩んでたよな。ごめん。彼氏失格だよな」
「そんなこと、ない…、そんなこと言うなら私だって彼女失格だもん…!」
「んーん。寂しい時に寂しいって言わせなかったオレが悪い。感情爆発させるまで気付かねぇでごめんな?」

タカちゃんが私の手を握ってゆっくり顔を近づけてきた。ちゅ、と一瞬触れる唇。久々の感触に涙が出た。

「タカちゃん…ごめんなさい、作ってたもの、壊しちゃって…」
「大丈夫だよ、縫ったとこ一部外れただけだから。すぐ直せた」
「本当に…?作品展まで間に合う…?」
「間に合う。つかもう出来たからオレ今日部活出ねぇわ」
「えっ大丈夫なの!?」
「今日は顧問の先生に任せたから大丈夫。つーことで久々にデートすっか」
「嘘!?いいの?」
「おう。何したい?」
「えぇ…そうだなぁ…タカちゃんと手繋いで歩きたいしちょっと何処かで一緒に食べたいしお家行ってイチャイチャもしたいし…」
「じゃそれ全部する?」
「タカちゃんが…いいなら」
「いいに決まってんだろ。つかオレもそれ全部したい」

優しく微笑むその顔を見ると、我慢ができなくなり思いっきり彼の体を抱きしめた。タカちゃんはもう一度ごめんなって言いながら私の背中を撫でてくれた。温かいこの大きな手の感触。本当に大好き。段々タカちゃんの手つきがいやらしくなってきて、私のブラのホックをシャツの上から悪戯するように弾いてきた。お外でデートもしたいけど、今日はこのままお家直行も悪くないかも。


先輩と後輩




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