三連休の中日、久しぶりに中学からの親友たちと集まってカラオケオール。アラサーだけど、久々に若いことしたくない?と誰かが言って計画されたこの日、とにかく私達は浮かれていた。

最近の曲分からないよねって言って数年前の曲を歌って、そのあと「やっぱウチらが青春してた頃の曲っしょ!」ってなってあの頃流行った曲を入れて歌いまくった。オレンジレンジと倖田來未はテッパンで、やたらダンス練習した青春アミーゴは未だに踊れてみんなで大爆笑していた深夜0時過ぎ、私達のカラオケルームのドアが勢いよく開けられた。

「名前!」
「へっ!?はっ!?な、なんで」

突然登場した自分の彼氏に驚きが隠せない。友人達は「ドラケン君だぁー」と酒の回った口調でケラケラと笑う。

「なんでいるの〜?」
「あたしが教えたの、ここにいるって」
「えっなんで?」
「名前と連絡つかないんスけどって連絡きたから」

私の中学時代からの親友達となると、ドラケンももう連絡先を知っていて時々こうやって私の知らないところで私の情報が渡されている。中学の頃、一つ下に暴走族やってる男の子達がいると聞き、たまに無駄絡みしに行っていた私達。その頃からドラケンは同級生たちよりかなり背が大きく更に見えるところにタトゥー入れてたからある意味総長のマイキー君より目立ったいた。大人っぽいけど年下だからか揶揄うとちょっと可愛いところや暴走族やってる不良なところに刺激されて、ちょっと気になる存在だったドラケン。ダラダラと友人関係が続き、付き合い始めたのは成人になってからだったけど、それでもずっと仲良くやっている。


「どうしたのケンケン!あっさてはきみも歌いにきたのね!?」
「そのケンケンってのやめてもらえませんか…」
「え?だめ?名前が時々ケンケンって呼んでるからウチらん中ではケンケン呼び定着してるよね」
「ねーっ」

ケラケラ笑いながら、お酒を飲みながら、私達は顔を見合わせて「ねーっ」とやたら言った。酔っ払いのアラサー女×4人にドラケンはため息を吐きながら頭に手を当てた。

「とりあえず帰るぞ名前」
「はぁー?なんで?一億年ぶりのカラオケオールなのに!」
「オールなんてやめろ、アラサーの肌には毒だぞ」
「あっ、ケンケンその発言は私だけじゃなくみんなを敵に回したぞ」

ほら飲め!と酒を差し出せば「バイクだから。」と冷静に断られる。無免許でバイクで暴走してた奴が飲酒運転を気にするなんて、はっきり言って信じがたい成長だ。ドラケンに断られたお酒のグラスはとりあえず私が頂こう。ぐいぐいと一気にグラスを空にする私を見て、友人たちからは歓声が、ドラケンからはため息を吐かれた。

「すんません、コイツ連れて帰るんで」
「はっ!?ちょっとやだよ!?これから湘南乃風なんだから!真夏のジャンボリーまだしてないんだから!」
「また今度やれ」
「やだ!今したいの!!」
「いい大人が暴れんな。んじゃ、失礼しまーす」

30センチ近くも身長差がある男にひょいっと担がれた私の体。下ろせ下ろせと暴れてみるもさすがにこの体格差では敵わない。友人達はひやかすような声を上げながら「ケンケン名前をよろしくね〜」と私のバッグを渡していた。ああ、なんでこんなことに。湘南乃風、タオル回しながら歌いたかったのに。



「…恥ずかしいからもう下ろして」

エレベーターの前でそう言うと、ドラケンはゆっくりと私の体を下ろしてくれた。そのままエレベーターのボタンをポチっと押すが、タイミング悪くちょうど下へ行ってしまったところだった。私達の間に流れる沈黙がとても気まずい。

「悪かったよ、昨日は」

沈黙を破ったのはドラケンだった。少し睨むように彼の顔を見上げると、少しも怒った顔をしていなかった。

昨日は些細な事でケンカをした。私が作った晩御飯のおかずについて「今日は疲れたから魚じゃなくて肉の気分だったのに」と言われたことに私が腹を立てたのだ。そうなら事前に言ってくれれば良かったのに。せっかく作ったものに対して文句言うなよ。嫌々食べてもらいたくなんかない。そう言ってケンカして、昨日の晩御飯以来口を聞いていなかった。

「なんのことー?」
「は?なんのことって…お前記憶力大丈夫かよ?」
「大丈夫に決まってるわよ!」
「認知症じゃね?」
「あのさぁ…!もう忘れたって言ってやってんの!歳上女性の器の大きさに感謝しなさいよ!」

ついついまたケンカしそうな勢いでふっかけてしまった。だって認知症かって…なくない?冗談にしてもこの状況下では笑えない。

「そっか。サンキュー、名前センパイ」

くしゃりと笑って私の頭を撫でるドラケン。本当にセンパイだと思ってるのかな。中学の頃からセンパイだなんて呼ばれたことないけど。最初の頃は名前さんって呼んでて、それから名前ちゃんになって、付き合うようになってから名前って呼ばれるようになった。年月をかけて少しずつ変化し行った呼び方と関係性。その移ろいが懐かしい。気づけばもう何年も私の隣にはドラケンがいる。

「お、やっとエレベーター来たぜ」

エレベーターの扉が開くと同時に彼は私の手を引き中に入って、すぐさま1のボタンと閉のボタンを押した。ゆっくりと扉が閉まっていく様子を見ながら、私は壁に背中を預けた。

「名前、昨日はごめんな」
「もー聞いたってそれは……」

顔にかかる大きな影。ふと顔を上げるとそこにはドラケンの顔があり、私の肩に手を置いて私の身長に合わせるように腰を屈めてキスされた。エレベーターが開いて人が来たらどうしようというドキドキ感と、付き合い始めた頃にはこうやってエレベーターに入るとすぐ体をくっつけてキスしてたなぁという懐かしさ、両方が私を襲ってきた。

「これで仲直りな?」

電子音と共に一階に到着して扉が開く。ドラケンは何ともない顔をして降りていったが、久々にこういうことされた私は平常心でいられなかった。そんな私を振り返って見て、「顔真っ赤じゃん」ってきみは笑うのだった。



先輩と後輩




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