04



目を覚ますと横には春千夜の綺麗な寝顔があった。

えっ!もしかして…私ヤッてしまった!?うわーうそでしょ全然記憶にない……!


なんて、残念ながら私はそんな愚かな女ではない。よくお酒飲みすぎて記憶なくして朝起きたら知らない男が横にーーーなんてドラマとかであるけど、私はいくら飲んでも記憶を無くしたことなんて一度たりともなかった。だから昨夜の出来事もしっかりと記憶している。昨日の吐き気だってお酒というより食すぎたことが原因だ。

あの後お店のトイレで吐こうとするも、嘔吐することに慣れてないから「むり!怖い!吐けない!」と騒ぎ出す私に、春千夜は無理やり私の喉の奥に指を突っ込んできて吐かせた。

えっ、ちょっ…さすがの私でも人に何させちゃってるんだって焦った。春千夜の長いけど少しゴツゴツとした指が自分の喉と舌に触れた時、あの初体験の時以来の指の感触に涙が出そうになった。あぁこれ、これが春千夜の指だったよなぁって。でも蘭さんの指の方が長くて細めだったなぁとか一瞬考えちゃうあたり、私は間違いなく最悪な女だ。

その後も春千夜が会計を済ませてタクシーに乗せてくれようとするが、吐きそうな客は乗せられないと乗車拒否され春千夜が運転手に暴言を吐いていた。仕方なくそのままおぶってホテル(ラブホじゃない、徒歩圏内にあったなんかハイクラスな有名ホテル)に運んでくれようとした。私が「外寒い」とぼやくと、春千夜は着ていた高そうなスーツのジャケットを肩にかけてくれた。「汚したら殺すぞこのゲロ女」という暴言と共に。

そうつまり、私が自分の部屋のベッドより遥かに広くて寝心地の良いこのベッドで朝を無事迎えられたのは、確実に春千夜のおかげなのである。


「ありがとう、春千夜…」

なんだかんだ私を放っておけないんだなぁ春千夜は、ってなんか謎の優越感に浸った。そりゃそうだよね。私たち、互いがハジメテの相手な上に小さい時から知ってる仲だもんね。だからあんたがどんどん不良になってろくに家にも帰らなくなって何年も会えなかったこと、本当に寂しかったんだよ。

綺麗に染まっているピンク色の髪に触れてみる。それから憎たらしいほどバッサバサならまつ毛にも。いいなぁこのまつ毛。私なんてせっせとマツエクサロンに毎月通ってこれなのに、天然でこれって。このまつ毛マツパとかしたらかなりヤバいよなぁって考えながら弄り回していると、ガッと手首を掴まれ動きを止められた。

「…人の顔で遊んでんじゃねぇよクソ女」
「ごめぇーん」

今日も今日とて春千夜は口が悪い。面と向かってクソ女って、普通の女の子だったら泣くよ?

「春チャン、昨夜はありがとうね」
「覚えてんのかよ」
「うん、ぜーんぶ!ホテルの部屋でもう一回吐いてから春チャンがベッドに私を投げつけて、その後春チャンがシャワー浴びてる音を聞きながら眠ったことまで、ぜーんぶ覚えてるよぉ」
「憎たらしいほど細部まで記憶してんな。じゃあさっさと起きてそのゲロ臭ェ体洗ってこい」
「え?臭い?うそ?」
「嘘なわけねぇだろ早く行けこのゲロ女」

いやいやもうほんと酷すぎでしょ。さすがにこの言われよう、笑ってしまう。体をベッドから起こすと空っぽになった胃がぐるりと動く感じがした。ばっちり全て吐き出したからか今朝は全く気持ち悪さがない。うん、最高。

「名前」
「んー?」
「もう吐き気はねぇのか」
「春千夜がばっちり介抱してくれたから大丈夫だよ」
「そーかよ、単純な体で羨ましいわ」

あんな酷いこと言ってきたって結局私を心配してくれる。うん、やっぱり春千夜最高。




シャワーを浴びて部屋に戻ると、春千夜は昨日着ていたスーツ姿にもう戻っていた。ネクタイはまだ締めてなく、だらんと首から下げまま。そしてスマホを片手に誰かに連絡をしている。たぶん、仕事関係?

「春チャン、もう帰るの?」
「うん」
「え?もう?エッチしないの?」
「しねぇよ!」
「うそ?男女が同じホテルの部屋にいるのに?私念入りに体洗って来たのに?」
「知るかよ!テメェとは二度としねぇ」

自分より頭一個分背の高い位置から、春千夜がぎろりと睨み下してくる。ちょっとやだ、なんでそんなマジな顔で睨んでくるのよ。そんなにそんなに私の事嫌いなの?

「…なんでそんなに嫌うの」

春千夜のスーツの裾を掴み、長年聞きたかった疑問をぶつけた。

「分かんねぇの?」
「分かんない」
「本気で?」
「うん」
「じゃあ言ってやるよ。テメェみてぇなアバズレ、好かれる方が珍しいんだよ」

さすがに、今の言葉は応えた。そんな皆に嫌われてんだよ、みたいな言われ方、さすがにキツい。目に涙が溜まりそうな感覚が込み上げてきたから、グッと抑え込んだ。春千夜にバレないように、グッと堪えた。

「お前さ、オレのことバカにしてんのか?」
「は…?そんなわけないじゃん…」
「じゃあ何泣きそうな顔してんだよ」
「してないもんっ」
「してんだろ。涙堪えてんじゃん」

くいっと顎を持ち上げられて顔を見られた。その反動で涙が一粒溢れて頬を伝った。やめて、やめてやめて見るなバカ!あんたにそんなこと言われて泣くなんて、そんなの私じゃない。

春千夜は私の顎を掴んだまま、まじまじと私の顔を見てきた。メイクも何もしていないすっぴんな今、確実に春千夜の方が綺麗な顔をしている。

春千夜と目線が絡む。どうしていいか分からず目を逸らす。するとあろうことか春千夜は、先程溢れた私の涙をぺろりと舐めとった。驚いて目を丸くしていると、今度はその舌で私の唇を舐め、そのまま唇の間を割り入って私の口の中に侵入してきた。驚きと、その舌の動きで呼吸がうまくできない。

昨夜は私が一方的に春千夜に唇を合わせただけだった。その前キスしたのは勿論中学生の時のあの時で、キスすらお互い初めてだったからよく分からず舌を適当に動かして、そしたら歯がぶつかっちゃったりして、本当に下手っぴだった。

だから今すごく驚いている。あの春千夜がこんなにキス上手くなったのかって。きっと私の知らない間に、知らない女の人といっぱいしてきたのかなって。そう思うと心臓がぎゅっと摘まれるような気分になった。

「名前…」

吐息混じりに名前を呼ばれ、もうそれだけで自分の下半身が疼くのを感じた。もっともっとってせがむように春千夜の腰に手を回し抱きついた。もうこのままめちゃくちゃにして抱いてほしかった。

「春千夜…ベッド行こ?」

唇を離し、どちらかのか分からない唾液が糸を引いた。春千夜はニヤリと笑って私の唇の下を舐めた。

「ヤんねーっつったろ、お前とは」
「え?」
「つかオレもう帰るっつったじゃん」
「え?は?ここまでして?」
「ここまでって?キスしただけだろぉ」
「はい?なにそれマジ空気読んでよアホ千夜」
「うっせ。期待してんじゃねぇよこの尻軽」

春千夜は首にかけたまんまだったネクタイに手を掛け、きっちりと締めた。そしてスマホやら財布やら自分の荷物をポケットに入れてドアの方に向かい始めた。

「ちょっ、待ってよ春千夜!」
「あん?」
「やだやだ、ねぇどうしてくれんのよこれ!帰らないでよまだ」

春千夜の手を取って自分の下半身に当てがった。さすがに直接はヤバいかと思って、パンツ越しに。そんな私の行動に春千夜は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに冷めた目で見てきた。

「知るかよ。自分でやれ」

そのまま反対の手で私の手をやんわりと外して、部屋から出て行った。思いっきり手を払いのけられなかったのが唯一の救い……だったかもしれない?




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