03



血飛沫と共に響く男の呻き声。サイレンサーを付けてるとはいえ耳の奥底にまで銃声はよく響いた。銃口から出る細い煙の火薬臭さが鼻を掠める。

「おい、このゴミ処理頼んだぞ」
「今日もスマートに仕事するなぁ三途」

側で見ていた蘭が馬鹿にしたように笑いながら拍手してやがる。うぜぇ。てかこれくらいお前がやれよ。オレが一応この組織のナンバー2なんだけど。

「ゴミ処理は任せとけよ。お前昨夜から働き詰めだろ」
「おー悪ィな」

一応労ってくれているのかなんなのか、俺の肩に手を置きながらもう帰っていいと言われた。つかなんだよ肩触るとか、気持ち悪ぃなと思いながらその手に目を配らせると、見慣れない指先が視界に入る。

「…どうしたその爪」
「あ、気づいた?可愛いっしょ」
「あ?」
「名前ちゃんにやってもらったの」

は…?今なんて…?
目を細めてわざとらしくニコリと笑う蘭の目に心底嫌気がさした。こいつ…あの時もらったサロンの名刺見て本当に行きやがったのかよ。しかもオレに気づかせるためにわざと肩なんて触りやがったな。何考えてんだよ、と思ったと同時に、余計な話されてねぇだろうな、という焦りが生じた。

「上手だよね。そこの店長も言ってたけど名前ちゃん結構人気なネイリストらしい」
「へー」
「愛しの春チャンが来店するの待ってると思うぞー?」
「…お前さ、アイツと何話した?」
「別に?世間話。あ、でもお前の仕事のこと心配してた。お前に何かあったら連絡するって約束しちゃったからヘマすんなよー」
「…は?」

は?なんだよそれ?名前がオレを心配?てか仕事のこと何も知らねえはずだよな?つかなんで会ったばっかのこんな怪しそうな奴と連絡先交換してんだあのアホアバズレは!

「…じゃああと頼んだからな」
「りょうか〜い」

蘭の口から出てくる、その緩い返事の仕方もまじで腹が立った。








「春チャンーー!もぉ連絡してくれて嬉しいよぉ」

くそイライラしながらも数年ぶりに名前の電話番号をスマホの奥の奥から引っ張り出して連絡した。くそっ、絶対ェ連絡してくんなよって自分で言っておいたのに結局オレから連絡するハメになるとは…!

飲みに行こう行こうと煩いから、とりあえず何度か仕事で使った個室で飲める店に入った。名前はこんな高級そうなところで?って驚きつつも次第にその店の内装にきゃーきゃー言い始めた。相変わらずうるせぇ女だ。


「かんぱーい」
「…乾杯」
「んーー!やばい、めっちゃ高級な味しない?このシャンパン」
「そーかぁ?」
「あ、そっか春千夜はシャンパンとか飲み慣れてるもんね」

シャンパンの銘柄とか詳しいんだろうね、と言ってくる名前によく分からねーけど「まぁな」と返しておいた。テキトーに好きなもの頼めば、とフードメニューを渡せば名前はキラキラした目で次々と注文し始めた。食い意地張ってるのも、どうやら変わってねぇみたいだ。

「今日はもうお仕事終わりなの?」
「おー」
「早いね。深夜2時くらいまで働いてるイメージなのに」
「あー、まぁそんな日は多いかもな。朝方までなんて日もザラ」
「この間会ったのも早朝だったもんねぇ。大変な仕事だよねぇ」
「まぁな」

…なんだ、コイツ蘭から仕事のこと聞いてんのか。まぁそうか、ネイルしてる間って喋ってる時間たくさんありそうだし。知ってても、引かねぇのか…。正直名前をこっちの世界で起きている事に巻き込みたくない。オレと蘭の知り合いだとわかって手ェ出してくる奴はそういないと思うけど、万が一コイツが巻き込まれるようなことがあったら……

「お前さ、もう蘭と関わるのよせ」
「なんで?常連さんになってくれるって言ってたのに」
「はぁー?やめろ、アイツまじ危ねぇから、オレが言うのもなんだけど」
「確かに面倒そうな人だよね」
「おー間違いなくな。だからもう関わんな、分かったか」
「えぇー…うん」
「それから、余計なこと喋ってねぇよな」
「と言いますと?」
「…オレとお前が昔、何したか、とか」

口にするのも嫌だった、あんなクソみてぇな中学んときの経験。名前の目をまっすぐ見れねぇ。そのくらい目を逸らしたい過去の出来事だ。でも名前は全く気にしてねぇのか飄々としたままグラスを空け、またシャンパンを注いで、更に追加の酒まで注文し出した。…え、こいつこんな飲むの?つかペース早くね?

「話してないよ、そんなこと」
「そうか、ならいい」
「話されたら嫌だったでしょ?」
「そりゃな」
「大丈夫。私春千夜が嫌がることはしないから」

はぁ?どの口がそんなこと言ってんだよ。オレの嫌がること、散々してきただろうが!オレのもんになったと思ったのに次々と他の男とっ捕まえて、ひっついて、股開いて。そんなお前の姿をオレがどんな思いで見てたと思ってんだよ!それに気づいてねぇことがお前の一番ひでぇとこなんだよ!

「お前さ…、なんでずっと男と寝まくってんだよ。この間の朝ホテルで逃げられたっつーのもどうせ名前も知らないような男なんだろ?」
「えー、気持ちよくなりたいから、かなぁ?」
「だーかーら、そんならちゃんと男作れよ」
「やだよぉ面倒くさいもん。今どこで何してんの?とか連絡来たり、さっき話してた男誰?とか問い詰められたりとかさ、そーゆーのうざったいじゃん」
「好きだったらうざったくならねぇんじゃねーの?」
「えっ、そーゆーもんなの?」
「多分な」
「春千夜…もしかしてそういうの聞かれてもうざいって思わない相手が、いるの?」

ぐいぐいと酒を飲んでいた名前の手が止まった。心なしか震えているようにも見える。別にそんな相手がオレにいようがお前には関係ねぇだろが。

「いるかもなぁ」

名前の瞳が一瞬哀しく揺れた、ような気がした。知ってんだぞこのアバズレ女。そういう目しとけば男が簡単に落ちると思ってんだろ。馬鹿にすんじゃねぇぞ。オレはそんな安い手には乗らねぇからな。




その後も名前はぐいぐい飲んでバクバク食って、さすがのオレでも「もうやめとけよ」った止めた程だった。そして案の定、予想してた展開を迎える。

「……きもちわるい…」
「だからやめとけっつったろ」
「吐く」
「は!?やめろ」
「春千夜…助けて」
「吐くならトイレ行け!うわ、近づくな!間違えてもオレに吐くなよ!」

フラフラと近づいてきてそのままオレにもたれ掛かってきた。吐かれたらマジでやべぇと思って逃げようとするけど名前にがっちりと腕を掴まれて逃げられなかった。おい、真面目にふざけんなこのアバズレゲロ女!

「春チャン…」
「んだよ。トイレ行け」
「もう…昔みたいにはいかないの…?」
「はあ?」
「さみしいよぉ春千夜…」

掴まれていた腕を引っ張られ、そのまま名前に唇を塞がれた。勿論コイツとこんなことをするのはあの日以来だ。あの時とは違って甘ったるいグロスの匂いがオレの唇に移った。ゆっくりと唇を離した名前はトロンとした目でこっちを見る。

「名前、お前…」

誘ってんのか?

そう聞きたくなった。けどなんとかその言葉を飲み込んだ。どうせこのままコイツと寝たって、コイツはまた男遊びを続ける。幼馴染で初体験の相手だからって、名前にとっちゃ一晩限りの相手にしてる男達と変わらねえんだろ?ふざけんなよまじ。この尻軽女が!

「春千夜…お願い」
「知るか」
「そんなこと、言わないでぇ…」
「どの口がそんな事言えんだよ」
「この口……うっ、吐く、この口」
「…はっ!?」

その後、オレが名前を担いでトイレまで連れていき介抱しまくったのは言うまでもない。こんな女、放っておけばいいのにできねぇ自分に心底イラついた。やっぱコイツと関わるとろくなことねぇ。本当、クソ喰らえだ。







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