噛み砕いて伝える愛


お前んちの近くの公園まで来てるから出てこいよ、と連絡を受けて、途中だった宿題を投げ出して急いで出かけた。つっかけサンダルを慌てて履いたら左右逆で、私ってこんなドジだっけと思いながら急いで履き直して。がちゃりと玄関の戸を開けたら思ったより寒くて、一瞬迷いつつも部屋に戻ってパーカーを掴んでから外に出た。


「おっせーよ」
「…ごめっ……!」
「や、嘘だよ。むしろなんでそんな息切れしてんの?」
「え、だって待たせちゃ悪いと思って…」

特攻服を着て長い髪を耳の後ろで括っている場地くんは、そんな待ってねぇからって八重歯を見せながら笑ってくれた。寒いと思ってパーカーを羽織ってきたのに、走ったから少し汗ばんでしまった。なんだ、こんなことなら部屋戻って羽織ってこなくて良かったかも。


「あ、また喧嘩してきたでしょ」
「バレたか」
「アザになってるよ」
「いつものことだ。座れよ名前」

場地くんが座るベンチの横にピタリとくっつくように座った。近ぇよってウザそうな顔しつつも、私を絶対に突っぱねない。さりげなく手を握ってくれるとことか、年下のくせに顔だけは大人っぽいところとか、そんな場地くんがとにかく好きで好きで仕方なかった。

「アンコと子犬たちはどうよ?」
「順調だよー」
「あ、そういや子犬の貰い手見つかったぜ」
「ほんと!?」
「あぁ。うちのチームの奴んちとか、その親戚んちとか。写真も見せてら気に入ってたぞ」
「よかったぁ〜」
「まぁ子犬たちみんなアンコに似て美人だからな」

アンコが産んだ子犬は全部で三匹だった。貰い手を探すのは場地くんにぜんぶ任せちゃってたけど、思ったより早く見つかって一安心。正直、この人に任せて大丈夫だったかなって思ってたけど、動物のこととなるとしっかりと余念なく動いてくれるみたい。


「また今度見に行っていいか?」
「うん。でもちょっとだけね。アンちゃん産後でデリケートな時期だから」
「わーってるって」

週に何回か、こうやって公園で場地くんと喋る習慣ができていた。付き合う前もこうやってることはよくあってけど、でも付き合ってからはもっと長く喋ってるようになったし、物理的に距離も縮めながら一緒にいるようになった。

「ばーじくんっ」
「あ?……っ、おい、いきなりすんな」
「やだ、口の中血の味した」
「殴られて口ん中切れてんだよ。ったく、だから今日はキスしねぇつもりだったのに…」
「えーそんなことできたの?」
「…無理だったかもな」

片手で私の肩を抱き寄せて、ちょっと強引にキスしてくれるのが場地くんらしくて好きだった。口の中に広がる血の味も、これはこれで彼らしい。

「場地くん、すき」
「おー。オレも」
「もっとちゃんと言ってよ。好きだ名前、世界一可愛いぜ!とかさぁ」
「お前それ自分で言ってて恥ずかしくねぇの?」
「恥ずかしいよ!だから場地くんが言ってよ!」
「オレが可愛いって言う女はアンコだけだ」
「どんだけアンコ好きなのよ…」
「そういうお前はどんだけアンコに妬くんだよ」

笑って、戯れあって、場地くんの束ねてある髪を引っ張ってやった。楽しいなぁ、場地くんといると。最初は柄悪いヤンキーとしか思えなかったのに、今では気を遣わずに過ごせる存在になっていた。留年してる暴走族の一員と付き合ってるなんて、親にも友達にも言えなかったけど。でも私が好きになったのは、仲間思いで動物好きで不器用だけど優しいこの人だって胸張って言いたい。


「おい、髪引っ張んのいい加減やめろ」
「もう解けたね」
「お前がやったんだろ」
「結んであげよっか」
「いーよもう」
「男のくせに綺麗な黒髪だよねぇ」
「お前には負けるよ」
「あ、珍しく褒めてくれた」
「褒めたうちに入んねーよ」
「あ、そうなの?」
「おー。褒めるときはちゃんと褒める男だぜオレは。お前は褒めるとこがないだけ」
「ひっど!!」

彼女に対する扱い酷すぎない!?と叩こうとすると、いとも簡単に私の手首は掴まれてしまう。そのままぐいっと引っ張られて頬にちゅっと口付けられて、抱き寄せられて。不覚にも心臓がどきっと音を立てた。

「冗談だよ。名前はいい女だ」
「……ありが、とう」
「じゃなきゃオレが付き合うわけねぇだろ」

滅多に聞けない場地くんからの甘い言葉。頭の中で何度も何度もリフレインさせて、噛み締めた。






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