彼らの未来に幸運を



「あーやべ、時間ギリギリだな」
「ギリギリっていうか絶対遅刻になるよね」
「な」

12月31日。辺りはもう真っ暗で普段なら人気もない時間帯だが、今日は違う。新年の訪れを待つ人たちで駅はごった返していた。

ドラケン君に誘われた、東卍メンバーでの年越し。久々にみんなで集まりたいっていう事もあって参加することにした。そして三ツ谷くんも参加するつもりでいたらしいから、今日は一緒に来た。

みんなが何て言うか怖かった。ドラケンくんにはクリスマス前に色々相談というか、会って話したからそう大きなリアクションはして来ないだろうけど…千冬くんとか、どう思うかな。スマイリーくんも無駄に騒いでいじり倒してきそう。



「あっ来た来た、名前さーん!こっちです」

人混みの中、私の姿を見つけた千冬くんが手を挙げて呼んでくれた。そこには私と三ツ谷くん以外はもう揃っていた。ドラケンくんは私たちの姿を見るとすぐさま口角を上げて笑ってくれて、それがなんだかとってもくすぐったかった。

「おめーらおせぇよ、寒い中待たせんな」
「ごめんドラケンくん」
「珍しいですね、名前さんが遅刻なんて」
「あ、オレのせいなんだわ。家出ようとした時ブーツの紐切れて新しいのに付け替えてたら電車一本逃しちゃって」
「あーそうだったん……え?」

家出ようとした時って?
千冬くんが三ツ谷くんの言ったフレーズをそのまんま繰り返して聞いてきた。そして慌てふためいている。そんな様子をドラケンくんはニヤニヤしながら見ていた。恥ずかしい、想像以上にみんなに報告することが恥ずかしい。

「千冬、あのな。これからはオレが名前のそばにいることにしたんだ」
「……えっ?」
「ごめん、驚くよな」
「えっ!?名前さん!?えっ!?これドッキリ!?」
「ち、違うよ」
「言ってくださいよ!彼氏できたら教えてくれって言ったじゃないっスか!」
「ご、ごめん。でもこうなったのもほんとこの一週間以内の話で…」
「おめっと、名前。良かったな元彼引きずるアラサー女拾ってくれる奴なんてそういないぜ?」
「ドラケンくんはもうアラサーって単語言うの禁止ね」

周りのみんなにも聞こえたらしく、スマイリーくんは何の冗談だよアラサーって弄ってくるし、八戒くんはタカちゃん本気!?って半信半疑でいるし、一虎くんはようやくだなと言ってきた。それぞれの言葉に顔を赤くして対応している私を見てドラケンくんは爆笑していた。もうなんか、色々ひどい。

「名前さん…おめでとうございます」
「千冬くんには相談するべきだったかもね…」
「んー、なんとなく気づいてはいましたよ、二人の距離が縮まってるのは。ほら、うどん食いに行った時も三ツ谷くんの話出してたでしょ?」
「あぁ…そうだったね」
「それから三ツ谷くんうちの店に来て、一虎くんに名前さんと話してやってくれって言ってたし…なんか、二人の関係が変化してるんだなぁって」
「やっぱさぁ、おかしいかなぁ…今更三ツ谷くんとこんなことなるなんて。亡くなった元彼の昔からの友達と付き合うなんて」
「そんなん気にしてたら前進めませんよ。だって名前さん、三ツ谷くんと距離縮まってから場地さんの話笑ってできるようになったじゃないっスか。それができるようにならないと、あなた一生あのままでしたよ」

千冬くんにこんな風に言われるとは。ずっと弟みたいに思っていた彼が、なんだかとってもしっかりと頼り甲斐のある男になった感じがした。いっぱい心配かけたよね。ごめんね、ありがとう、千冬くん。

「弟的な立場からしたら、私が三ツ谷くんと付き合うのって複雑?」
「全然。オレ、昔みたいに明るく笑ってる名前さんが好きだから」

そう言って笑ってくれる千冬くんの笑顔は、やっぱり可愛い弟のように見えた。


「おい、三ツ谷たちのせいで年明けまであと3分切ったぞ!」
「オレらのせいかよ」
「そーだろ!遅刻した上全員の関心もってく話題連れてきたんだから」
「なぁジャンプしよーぜジャンプ」

スマイリーくんが言うジャンプとは、12年前の年越しの時、ここでみんなで跳ねたあの瞬間を再現しようとしているのだろうか。懐かしいなぁ。そう言えばあの年以来、年明けは家でしっぽり過ごしていた。あの年だけは、場地くんが亡くなって2ヶ月だったからまだ引きこもっていた私をみんなが無理くり連れ出してくれたんだっけ。

あの時の情景を静かに思い出していると、三ツ谷くんが私の隣にそっと立った。

「スマイリーこういうの好きだよなぁ」
「うん、スマイリーくんらしいよねー」
「名前覚えてる?12年前もさ、ここで年越ししてみんなでジャンプして…」
「うんうん」
「ハッピーニューイヤーっつってみんなはしゃいでんのに、名前だけ泣いててさ…みんなテンション上がってて気づいてなかったのにオレだけ気づいてさ。周りに泣いてるの見えねえようにお前を隠して、泣くなよって諭してたよな」
「…あれって三ツ谷くんだったっけ」
「ひでぇ、覚えてねぇの?」
「泣いたのは覚えてる…場地くんがいなくなったのに本当に時は流れてってるんだなって思って…。でもそっか、あれ三ツ谷くんだったか」
「ドラケンとかと勘違いしてた?」
「いや、もう誰が隠してくれてたとか全然考えてなかった」
「つまりは本当に場地以外見えてなかったんだな」
「…でも今は、もう違うよ」

隣に立つ三ツ谷くんを見上げ、目が合うとお互い目を細めて笑った。今年の年越しは、今までと違うんだなって実感しながら。

「…もしかしたらオレあの頃からお前のこと」
「おいイチャついてんなよテメーら!年明けまであと10秒だぞ!!」

三ツ谷くんは何か言いかけていたけど、ぺーやんくんの声でそれは掻き消された。そしてそのまま私の手を握りみんなのところへ駆けていった。

12年前のあの日とはメンバーはちょっと変わっているけど、でもそれでも私はまたこの瞬間にこの空間に居られることが嬉しかった。みんなもういい大人なのに、あの日のようにはしゃげるのって最高に楽しいよね。今日はもう泣く理由なんてないから、笑顔で年越しを迎えられる。


「「「せーのっ!ハッピーニューイヤー!!」」」







「なー…やっぱ怖くね?こんな真夜中に」
「でも今行っておきたいし、新年の挨拶も兼ねて」
「お前ほんと幽霊とか平気なタイプなんだな…」
「そういう三ツ谷くんは実は幽霊とか苦手なタイプだね?」

みんなとカウントダウンをして、参拝して、喋って笑って楽しんでから解散した。きっとみんな各々の家に帰って行ったんだと思うけど、私と三ツ谷くんは帰路につかず、そのまま場地くんのお墓に来た。

「花とかなんも買ってねぇな」
「まぁこの時間だし、年末年始でお店もやってないししょうがないよ」
「ペヤングぐらい買ってくりゃ良かったかな」
「んーでもペヤングは千冬くん専門のお供物って感じだしなぁ」

手ぶらで申し訳ないけど、毎年していた新年の挨拶、今年は三ツ谷くんと来たかったから。場地くんの墓石の前に立ち、二人で手を合わせた。

明けましておめでとう。場地くん、私ついにひとりぼっちじゃなくなったよ。私のそばにいてくれる人、見つけたよ。場地くんみたいに口悪くないけど、場地くんみたいに優しくて私をちょっと弄ってくる人。場地くんみたいに私をきっと大切にしてくれる人。私も大切にしたいって思えた人。場地くんが私を幸せにしてくれたように、私も彼を幸せにするね。…でも、妬かないでね?


「ちゃんと場地に伝えられた?」
「うん。いっぱいちゃんと伝えられた。三ツ谷くんは?」
「んー?オレがお前の代わりに名前を守るからなって。オレなら安心だろ?って」
「へへ、そっか」
「あと名前がお前とのセックスが忘れられなくてオレとしてくれないんだけどお前どんなことしてたの?って」
「ねぇ!墓前でなんてことを!」
「冗談だよ」

悪戯そうに笑う三ツ谷くんの顔が、場地くん表情と似ていた。でも不思議と二人の顔は重ならなかった。それで再認識できた。私ちゃんと三ツ谷くんのこと、場地くんと重ねないで一人の男性として見ているんだって。

「寒ィし帰るか」
「うん」
「また来るな、場地」

ずっと外にいたせいで、キンキンに冷えてしまっていた手を三ツ谷くんの手に絡ませた。彼の手も同じように冷えていて、お互い悴んだ手でぎこちなく手を繋いだ。場地くんとは違う手。でも同じように私を包み込んでくれる手。絶対に忘れないよ、場地くん。たくさんたくさんありがとう。もう安心してね。いつまでも泣いてばかりの私じゃないからね。
だからね、場地くん。三ツ谷くんの隣で私が笑っていられるよう、ずっとずっと見ていてね。



fin.




back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -