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「なぁ…あの女って誰なんだよ」
「知らん…でもボスの無言の圧力で誰もなんも聞けねぇよな」

最近マイキーの側にいるとある女。幹部しか集まらねぇ場所にも一緒にいたり、移動中の車で隣に座っていたり。なにかと当たり前のようによく隣にいる女。だが幹部と言えど誰もその女の存在を問い質せない。


「んなモン聞いちまえばいいだろうが。オマエらなにビビってんだよ」
「やめとけよココ。つまんねぇこと聞いてボスの機嫌逆撫でんなよ」

その女のことを聞こうとする者。それを止める者。どっちが正しいかなんてない。ただまぁ、マイキーが機嫌悪くなっと面倒だし、オレもこれは聞かないに一票。

「つーか三途、オマエならなんか聞いてんだろ?」
「あ?」
「あの女のことだよ」
「さぁ?知らねぇよ」

知ってても、言わねーけどな。








「マイキー、オシゴトの時間だぜ」

深夜0時ちょうど、マイキーを自宅まで迎えに来た。いくつものロックを解除しないとそのフロアにすら入れない程重厚な設備のマンションの一室。その鍵を預かってるのはオレとほんの一部の幹部だけ。マイキーが信頼を置いてる者にしかその鍵は預からせてもらえていない。

靴を脱ぎ、長い廊下を抜けリビングの戸を開けるとむくりとソファから起き上がるマイキー…、と隣には例の女。

「もうそんな時間か…」
「おう。寝てたか?」
「少し。三途、水くれ」
「ウッス」

冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを一本取り出して渡す。喉が乾いてたのかマイキーはすぐさま飲みだした。その横で、明らかにメンズもののシャツを着て座るその女は「わたしにも一口ちょうだい?」と甘えた声を出す。マイキーは「もう全部やる」と、女にペットボトルを渡した。

「車二台で来ただろ?」
「あぁ、言われたとおり」
「他に幹部の奴誰連れてきた?」
「蘭とモッチー」
「十分だ。オレはその二人連れていくからオマエはコイツ車で送ってやってくれ。住所はコイツに聞け」
「…オレがですか?」
「ああ、不満か?」
「いえ、まさか」
「じゃあ頼んだぞ」

ソファから立ち上がり、部屋を出て行こうとするマイキーをその女は小走りで追いかけた。そして玄関でいつものサンダルを履くマイキーにこう声を掛けた。

「マイキー、気をつけて行ってきてね」
「あぁ」
「私この部屋でマイキーが戻るまで待ってちゃだめ?」
「だめだ。帰ってろ」
「…はぁい」

いってらっしゃい、と言う女の言葉と共にドアが閉まる音がする。

女はペタペタと裸足で歩く音を立てながらリビングに戻ってきて、再びソファに座ってオレを見上げた。

「ナマエ、マイキー寝れてたか?」
「うん、少し。2時間くらいかな。でもちゃんと眠れてたと思うよ」
「そうか」
「今日春千夜は一緒に行かなくて良かったの?」
「まぁちょっとしたゴミ処理だかんな。行くほどでもねぇよ」

そっかぁと言いながらナマエは先程のペットボトルを飲む。少し口元から水が溢れ顎を伝って、首を伝って、胸元を濡らした。少し大きめのシャツからチラリと見える胸元。オレはシャツの襟元を思いっきり引っ張り、その中を覗いた。

「ちょ、ちょっと…」
「下着付けてねぇじゃん。マイキーとついにヤった?」
「…別に前から分かってたでしょ」
「いいや?直接は聞いたことねぇよ?」
「そんな直接言ってほしかったの?自分のボスの夜の事情を知ろうとするなんてゲスね」

呆れたように目を伏せるナマエが憎たらしかった。マイキーと寝たことも、それをオレに言わないことも、オレに平然とした態度でいることも全部、本当に憎たらしい女だ。齧り付くようにそいつの唇を塞ぐと、ミネラルウォーターのせいで冷んやりとしたナマエの舌が絡み付く。


「忘れんな。オメェに先に手をつけたのはオレだ」
「そうだね」
「マイキーには今貸してやってるだけだ。オマエならマイキーの側に置いても利になると思ったからな」
「だからちゃんとやってるじゃない私。マイキー、私と居るようになってから睡眠とれるようになってるでしょ?ちゃーんと身体の方も癒やしてあげてるし。春千夜が心配するようなこと何もないわよ?」
「結構なこった」
「さてと、マイキーには帰れって言われたし家まで送ってくれる?」


部屋を出てマンションの一階まで一緒に下まで下り、停めてあったオレの車に乗り込む。オマエの家どこだっけ?と聞けば、忘れたの?と笑いながらカーナビを入力していた。そりゃあ忘れもする。ここのところずっとナマエとは接していなかった。大して睡眠も取らずクマばっかり濃くなっていくマイキーを心配していなかったわけはない。マイキーはオレの王だ。絶対的存在だ。崩れられちゃ困る。だから偶然を装いナマエを近づかせた。コイツならマイキーを少し救えると思って。結果は上々。ナマエは思っていたよりいい働きをしてくれている。


「着いた。ここだよ」
「そうだったな」
「ありがとね、春千夜」
「おー」
「久々に寄ってく?」
「ばぁーか、オマエ今はマイキーのもんだろ。バレたらオレが殺される」
「さっきキスしてきたくせにー。じゃあ私とマイキーの関係が終わったらまた寄ってくれる?」
「なんかそれも殺されそうじゃね?」
「えぇ…じゃあもう無理じゃんね」

ケラケラ笑いながらナマエはシートベルトを外した。もう無理でも仕方ねぇんだよ、王を救うためにオレはオマエを捧げたんだから。




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