せーり中の彼女にムラムラする三ツ谷






「…痛い?」

 ベッドに横になるナマエにそう尋ねると「まぁそこそこ。まだピークは過ぎたかな」とかなんとか答えた。生物学上男として生まれた俺には一生わかり得ない痛み。個人差があると言えど、俺の中で女は毎月コレのせいで痛みや怠さやストレスを抱えているイメージ。

「どんくらい痛ぇの?」
「どんくらいって…」
「喧嘩に例えるとどんなもん?」
「知らないよ。喧嘩しないし…」

 少し呆れた様子でナマエはゴロリとこっちに背を向けるように姿勢を変えた。やはりまだ痛いのか、今の発言が苛立たせたのか、どっちかよく分からないけどとりあえず腰をさすっておいた。

 今日なら親いないから夜まで大丈夫だよ、とメールが今朝届き、小さくガッツポーズしながら学校に向かいつまらねぇ授業が終わるのを今か今かと待ち構えていた。中学生の俺たちがどちらかの家でひっそりと会ってひっそりと体を重ねられる機会はそうない。どうしても部活やら家族の事情があって、なかなか思うように会えない。だから今日は貴重な日になる予定だったが、まさかの事態。…いやまさかって程ではないんだけど。毎月来るもんだし。多少日にちがズレることはよくあるとナマエも言っていたし。でもここであからさまにガックリと肩を落とすのはさすがに男としていけないと思っている。女の体の構造上、避けられないし仕方がないこと。わかってはいるのに……ああ、なんで今日なんだよ。

「隆、帰っていいよ」
「なんで?親帰ってくるまでまだ時間かなりあるじゃん」
「だって今日できないよ」
「知ってるよ」
「じゃあ、」
「いいじゃん、できなくても。たまにはゆっくり何もせず過ごすのもさ」

 そう言うと背を向けていたナマエがチラリとこっちを向いた。そりゃヤりたい盛りの歳だし、できねぇのは残念だけど、それでもナマエといたい。嘘でもなんでもねぇこの気持ち、コイツにどれくらい伝わってるのかは不明だけど今日みたいな日に少しでも伝わればなと思う。またゴロリと体を動かし仰向けになったナマエ。右手で彼女の手を握り、左手でそっと腹を撫でる。

「一人でいたら心細いだろ」
「別に…毎月のことだから慣れてるもん」
「じゃあ帰ってもいいの?」
「…やだ」

 力なく俺の手を握り返してきた。つまんねぇ意地張ってないで、一緒にいてほしいって言えばいいのに。昔から変に素直じゃないところがあるんだよな。俺になんてもう気遣う間柄じゃねぇのに。

「なんか温かいもん飲む?」
「紅茶がいい」
「へーへー。あと薬は?飲んだ?」
「まだ飲んでない…」
「なんでだよ、飲めよ」
「飲まなくてもいけるかなぁって」

 その言葉を聞いて、ため息を吐きながら慣れた手つきでナマエの家の薬箱から鎮痛剤を出し、キッチンの戸棚から紅茶とマグカップを出してポットのお湯を注ぐ。それらを持ってナマエの部屋に戻るとありがと、と小さく情けなく彼女は呟いた。

「飲んで体あっためろ」
「うん…」
「で、薬飲んで横になってろ。効き始めるまで時間かかると思うけど、ここにいてやっから」
「うん…」
「他には?食いたいモンとかしてほしいことある?」
「…なんでそんな優しいの」

 まるで「裏があるんじゃないの」と言っているような目つきで俺を見ながら両手でマグカップを握り紅茶を飲むナマエ。失礼な奴だな。俺がお前に優しくなかったことなんてあったかよ。熱々の紅茶で少し舌を火傷したのかアチッと小さな声が聞こえてきた。ハッ、ざまぁみろ。俺が優しいとおかしいみてぇな言い方するから火傷なんてするんだよ。

「ねー…火傷した」
「…氷持ってくる?」
「いや、大丈夫…」
「もっとゆっくり飲めって」
「だって隆が優しすぎて変だから焦っちゃって」
「俺いつも優しいじゃん。なに、俺の優しさ伝わってない?」
「そんなことはないけど」

 ゆっくりと紅茶を啜る声だけが部屋に響く。不本意だ。俺がこれだけコイツを大切にしているのが伝わってないだなんて。でもそんなことでケンカするのは馬鹿馬鹿しいし、それにコイツは今日生理痛で弱ってるし…。ああそうだ、きっとホルモンバランスの乱れとやらでナマエはちょっとピリピリしてんだな。そういうことにして自分の中で納得させ、ナマエの腹部を撫でる。

「…なんで優しいの」
「はぁ?だーかーら、」
「ヤりに来たのにできないなんて、絶対本当はムカついてるじゃん」
「そんなことでムカつきません。ほら、薬飲んで寝ろ」

 中身がほぼ空になったマグカップを彼女の手から奪い、少し勉強道具で散らかっていた机に置いた。ついでに、まだ制服姿だったからナマエのクローゼットから部屋着も出してやり着替えるように促した。ペットボトルの水で薬を飲みながら
ナマエは「女の子のクローゼット勝手に開けるなんてサイテー」だなんて言ってるが、別にいつも部屋着取ってだの下着取ってだの言ってんのは誰だか。

「着替えさせて」
「甘えん坊か」 
「いいじゃん、だって今日の隆は優しいんでしょ?」

 だから、いつも優しいんだっつの。そう心の中で呟きながらそっとナマエの制服に手をかける。セーラーを脱がせてキャミを脱がせてついでにブラも…と背中に手を回したらナマエが慌てて俺の手を掴んだ。

「や、下着はいいから」
「あー悪いついくせで」
「絶対悪いと思ってないでしょ」
「思ってるって」

 嘘くさ、とボソッと言われたことに少し反抗したくなり、ブラのホックををばちんと人差し指で弾いてやった。この拍子でホックが外れたら面白いなとは少し思ったけど残念ながらそうはいかず。ナマエは少し痛かったのか今度はサイテー、と言ってきた。下着姿でそんなこと言ってきたってムカつきもなんもしない。むしろ唆られそうになる。

「もう早く部屋着着ろよ」
「隆」
「はいはい。ほら着せるぞ。はい袖通してー」

 なんだか妹の着替えを手伝ってるような感じだが、相手がナマエとなると当たり前だが全然気分が違う。今日はヤれない。分かっているのにナマエに服を脱がせたり着せたりしているとそういう気分になってしまう。だめだ、落ち着けよ俺。そう自分に言い聞かせながらなんとか制服のスカートから部屋着のズボンに着替えさせてやった。

「ほら寝ろよもう」
「…ねぇ、最後にもう一個ワガママいい?」
「どーぞ?」

 不謹慎かもしれないが、少し弱ってる姿のナマエはいつにも増して可愛い。眉がへの字に下がり目尻がとろんと下がっている。前髪を梳かすように指を通して撫でてやると、まるで撫でられている猫のように気持ちよさそうに目を細めた。

「ちゅーしたい」
「うん」
「あと、一緒に布団の中入って」
「…うん」
「あと腰がずんっと重くて痛いから撫でてほし」
「いやいやいやいや」

 前髪を撫でていた手でぺしんとおでこを叩いてやった。コイツは俺を殺す気なのか。今日はナマエの月一回の生理の日。できないの覚悟で来た日。今日はなんもせず二人でのんびりと過ごすと決めていたのに、なんつーこと言い出すんだ。

「ワガママ聞いてくれるって言ったじゃん…」
「無理難題すぎる。襲われてぇのか」
「ううん。優しく甘やかしてほしい」
「無理。我慢できなくなる」
「…ケチ」

 そう言ってゴロリと背中を向けるナマエ。恐らく拗ねたんだろう。…いやこれ、俺が悪いのか?やりたい盛りの年頃の男にあんなこと言ってくるナマエが悪いと思うんだが。でも不機嫌になったコイツを宥めるのも手間がかかる。今日は一応コイツが弱ってるってこともあるし、ワガママ姫様の言う事を聞いてやるか。

「おら、もっと端にいけ」
「え」
「腰ってどのへん痛ぇの?」
「えっと、このへん」

 俺がベッドの中に入るとさっきまで背中を向けていたナマエはこっちを向き、少し体を小さくして抱きつくように顔を俺の胸に預けてきた。こんな体制で腰を撫でさせるなんて本当にどうかしてる。こっちの気にもなりやがれ。気を紛らわせる為に「痛いの痛いの飛んでいけー」なんて言ってみたが、そんなんで気が紛れるはずもなく。むしろどんどん変な気分になっていき、股間に熱が集まっていく。

「隆」
「んー?」
「ちゅーは?」
「……いやもう、やめようこれ」

 限界だ。そう思い布団を剥いで身体を起こすと、ナマエもつられるように身体を起こしてきて俺の身体に抱きついてきた。

「あのさぁ、ナマエちゃんよぉ」
「ごめん。からかいすぎたね」 
「は?」
「隆がどのくらい我慢できるか試したくなって」
「…すげぇいい性格してんなお前」
「あはは、ごめんて。でも今日すっごい優しくしてくれて嬉しい。好き」

 ぎゅ、と俺の首に腕を回して抱きついてきて、もう一度「好き」と呟かれたら全て許せてしまう。からかいやかって、ふざけんな、いつも優しいだろうが俺は。そう思いながら力一杯彼女の体を抱き締めた。

「生理終わったら覚悟しろよ」
「ふふ、了解」
「からかった分たっぷりとお礼してやるから」
「やだー、ヤンキー怖すぎ」

 軽く触れる程度にキスをしてから、ゆっくりと二人で横になる。今日は一緒に昼寝するだけの時間にしよう。シングルベッドで二人で狭苦しく寝転がりながら、眠そうな目をしたナマエの頭をそっと撫でた。





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