男友達三ツ谷に誕生日祝ってもらう話






現在時刻22時15分。こんな時間に宅配便は届かないし、残念ながらアポ無しで訪問してくるような恋人もいない。普段の私ならここは居留守を使うところだ。でももう一度鳴るインターホンに今日はなにかが違うと感じ、自分の直感を信じてそっと玄関を開けた。

「…おい、こんな時間に玄関開けるもんじゃねーぞ」
「そういう三ツ谷こそ、こんな時間にアポ無しで一人暮らしの女の子の部屋訪ねるもんじゃないよ」

チェーンロックを外さずにドアを開けたところは評価するよ、と何故か上から目線な三ツ谷。一旦ドアを閉じてチェーンロックを外し、もう一度ドアを開けると真夏の夜特有のムワッとした暑苦しい空気が舞い込んできた。お邪魔します、と慣れた様子で靴を脱ぎ捨てる三ツ谷の首元は汗で濡れていた。走ってきたってわけではなさそうだけど、8月半ばとなればこの時間でも歩いているだけで汗が噴き出す。戸棚からタオルを出して彼に渡すと「お前にしては気が利くじゃん」とこれまた上から目線なことを言われた。

「で、何の用?こんな時間に」
「用なきゃ来ちゃダメ?」
「…ダメじゃないけど」

けど、そんな関係じゃないでしょ。そう言おうと思っても言葉が喉に突っかかって出てこない。だってそんなこと言って、「だよな」って返ってきたら私は絶対落ち込むから。共通の友達を通じて知り合った三ツ谷は、性別の壁を越えて仲良くなれた貴重な男友達。この関係を壊したいと思っているわけではない。でももう一歩、もう一歩だけ近い関係になれたら…と願う私は欲張りなのだろうか。

「飯食った?」
「さすがにこの時間だしね」
「どこで食ったの?」
「え…普通に家で…」

痛いところを突くような質問をされ、ちょっと歯切れの悪い喋り方でそう答えた。普通に授業受けてバイト行って帰ってきて家でご飯を食べる。別になんてことない日常を何も恥ずかしがることはない。だって三ツ谷は、今日が私の誕生日だって知る由もないんだから。どうせ今日も気まぐれでバイト後にふらっと立ち寄っただけに違いないんだから。

「そうだろうと思った」

ちょっとグサッとくる言い方に眉間にしわが寄った。でも三ツ谷が差し出してきたビニール袋を見て驚いて言葉を失い、眉間のしわなんてすぐにどこかへ行った。

「誕生日おめでとう」

ケーキ屋さんの袋、そしてその中に入っている白い箱。開けてみ?と言われ恐る恐る開けてみると一切れのショートケーキとHappy Birthdayと書かれたチョコプレート。

「…なんで、知ってたの?」
「いや、今日お前の友達から聞いて。めっっっちゃ焦ってバイトの休憩中抜け出してまだやってるケーキ屋探してなんとか一つだけ買えてさ。ショートケーキ好き?」
「え、うん、大好き」
「ん。なら良かった」

コンビニで買ったというシャンパンも出してきて、慣れた手付きで食器棚から皿やフォークやグラスを出してくる三ツ谷。貧乏学生の一人暮らしなので小洒落たシャンパングラスなんてないけど、そんなことは気にならないくらい私の気持ちは満ちていた。

「うし、かんぱーい」
「乾杯…。ありがとね、三ツ谷」
「サプライズなった?」
「すっごいサプライズ。全く予期してなかったもん」

ちょっと溶けかけたケーキの生クリームをぺろりと舐めながらそう言うと、三ツ谷は「まじ?」と何故か驚いた。

「俺が来るって思わなかった?」
「思わないよ」
「なんで?」
「なんで、って…」
「俺結構お前んち遊びに来てるじゃん、一人で」
「まぁそうだけど。でも私の誕生日教えてなかったし」
「だから今日聞いて死ぬほど焦ってこうやって来たんじゃん」
「そんな焦らなくても後日でも良かったよ?」

シャンパンを飲む手を止めて、呆れたように目を細めてきた三ツ谷。その表情すらかっこいいと思ってしまうなんて私はイかれてるのかもしれない。なんだか彼の視線が恥ずかしくなり、慌てて再びケーキを食べ始めると「お前さ、」と低い声で話しかけられる。

「まじ鈍くね?」
「え……え?」
「俺こんなアピってるのに」
「……ん?」
「ん?じゃねーんだワ。ムカついたからこれは俺が貰う」

そう言って私が食べようしていた苺を奪い、自分の口の中に放り投げた。ショートケーキの一番のメインを奪われた私は発狂し、返せ返せと襲い掛かるように三ツ谷の膝の上に乗っていた。そんな私にお構いなしな彼は、もぐもぐと苺を咀嚼しごくんと飲み込んだのだ。

「さいっあく…!」
「鈍いお前が悪い」
「鈍いんじゃなくて!あれは…その、驚きのん?だっただけで…」
「ふーん。じゃあ意味分かってんの?」
「分かってるし……ていうか三ツ谷こそ私の気持ち知ってて今日来たんじゃないの…?」
「バレたか」

舌を出しながらそう言うのはズルすぎないか。嬉しい気持ちと、やられたって気持ちで私の心はぐちゃぐちゃだ。ノリで三ツ谷の膝の上に乗っちゃってるし、三ツ谷も三ツ谷で私の腰に手を回してるし。この距離にドキドキしないわけはない。でも、ドキドキしてるとバレるのもそれはそれで悔しくて。

「なぁ」
「…なに」
「苺、そんな悔しかった?」
「かなりね。私苺好きだし」
「ごめんて。俺の誕生日ん時はお前がケーキの苺食っていいから」
「…その前にクリスマスもあるじゃん」
「じゃあ両方お前に苺あげる」

そう言って唇を重ねてきた彼からは、ほんのりと苺の香りがした。







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