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 このクソ暑い中、なんで公園になんて付き添わなきゃならねぇんだ。

 あれから数年経って、もうルナとコータとの関係も終わってるかと思いきや、案外まだ仲はいいらしくこうやって公園や互いの家で遊んだりしている。でもある程度年齢がいったからか、それともカレシカノジョという言葉の意味合いを理解したからなのか、そういった言葉は二人とも使わなくなった。それは兄的にはすげー安心だが、カレシという肩書きがなくたっていつ手出してくるかわかんねぇから一応まだ目は光らせている。

「ルナ、遅かったな…ってゲッ、なんで隆も来てんだよ」
「隆お兄様だろ。礼儀がなってねーぞクソガキコータ」
「クソガキって言う方がクソガキなんだよ!」

 コータはあの頃の可愛さは消え去り、立派なクソ生意気な男子に育っていた。なんなんだよまじ。なんでルナはコイツと未だにつるむんだ。最近はマナも連れて来るとパシったりするようにもなったし、本格的なクソガキだと思ってる。

「三ツ谷くん」
「おーナマエちゃん。来てたんだ暑いのに」
「まぁ夕方だし。コンビニ行くついでなんだけど」
「え!姉ちゃんコンビニ行くならアイス買ってきてよ!」

 本当にコータはクソガキだ。ナマエちゃんも断ればいいのに「仕方ないなぁ」なんて言うからコイツはまた我儘になるんだ。

「お兄ちゃん!あたしジャイアントコーン!」
「マナはアイスの実!」
「へーへー」

 普段はコンビニでアイスなんて買ってやらねぇけど、まぁ流れ的にうちの妹達だけ買わないっつーわけにもいかない。マナのことしっかり見ておくように告げてから、ナマエちゃんと公園を出る。夕方と言えど30℃近くあるから、少し歩くだけで額から汗が噴き出る。ふと横を見るとナマエちゃんも額からツーッと汗が垂れていて、こんな涼しげな顔してるこの子でも汗かくもんなのかとちょっと新鮮な気持ちになった。
 
「コータがアイス3本買ってこいって言ったの」
「クソガキだな」
「ね。でもほんっと最近よく食べるようになって…中学生になったらもっと凄いんだろうけど。ねぇ、三ツ谷くんも結構食べる方?」
「俺?ナマエちゃんよりは食べるだろうけど男ん中じゃそんな食う方じゃないかな。食う奴ってえげつねぇ量食うよ」
「そうなんだ。いつもご飯3杯くらい?」
「いやそんか食わねーって」
「そうなの!?最近コータ2杯は絶対だし、調子いいと3杯も食べるんだよ!」

 言われてみればあのクソガキ、最近体がデカくなってきた気がする。前までルナの方が全然背もあったのに気付けば抜かされそうだし。まだ小学生と言えど、ちょっとずつ男らしさが感じられるようになったアイツの存在が、やっぱりまた俺を心配にさせる。

「三ツ谷くん細身だもんねー」
「そう見える?一応筋トレはしてるからそれなりに筋肉はあるけど」
「そうなの?」

 なんの断りも入れずにTシャツから出る俺の腕を触ってきたことにちょっと驚いた。細い指と先の尖った爪先が汗ばんだ二の腕を摘んできて、一瞬身を引いてしまいそうになった。ナマエちゃんは「やば!硬い!」と言いながら少し指に力を入れてくる。

「ね、硬いっしょ?」
「うんすごい!私と全然違う」
「ナマエちゃんの二の腕は柔らかそうだもんなー」

 断りなしに女の子の体に触れるのはいいことじゃないと分かってはいた。でも、向こうも断りなしに俺の体を触ってきたんだからいいんじゃないか、と俺の中で魔が刺す。ノースリーブから出ている白くて柔らかそうなその二の腕を、指先で少し摘んだ。思っていた以上の柔らかさに驚いて、指が離れない。

「ちょっと!」
「…すっげ柔らかい」
「悪かったわね!脂肪の塊ですよーだ」
「いいじゃん女の子なんだから。柔らかい方がいいよ」
「でも弛んでるもん」
「全然弛んでねぇよ」

 指を離すのが名残惜しかったけど、ずっと触っているわけにはいかない。女の子の体って自分と違ってこんなふかふかに柔らかいのか。この感触から離れたくなかったけど、ナマエちゃんの腕からそっと手を離す。そんな俺をじっと見上げる彼女の目線が、なんか痛かった。

「…なんか、照れるね」
「な」
「三ツ谷くんって男なんだなぁって改めて感じた」
「は?なんで?」
「えーなんか腕の筋肉の感じが。弟はまだ男の子?少年?って感じで柔らかいけど、三ツ谷くんは大人の男だなぁって」
「まぁもう高校生だし。小学生のアイツと一緒にされたら嫌だな」

 そんなことを言って笑い合っていたら、コンビニに到着した。冷房の効いた店内は外から来ると本当に天国のように感じる。季節柄か、アイス売り場はすげぇ充実していて、ナマエちゃんは汗ばんだ髪をゴムで纏めながらアイスを覗いていた。今まであまり女子の頸がグっとくるっつーのがどういうことか分からなかったけど、なんか今一瞬でそれがどういう感覚なのか分かった気がした。

「…三ツ谷くん。三ツ谷くん!」
「え?あ、なに?」
「どうしたの?ボーッとして」
「あ、ワリ…。アイス選ぶのに集中しすぎてた」
「そんな真剣なの?」

 ナマエちゃんが笑うと、緩く結ばれたゴムから少し髪の毛が溢れ、また汗で濡れた頸に張り付いた。言えるわけがなかった、アイスじゃなくナマエちゃんの頸やさっき触った柔らかい二の腕をボーッと見つめていたなんて。数年前から妹の付き添いで公園で時々会っていたのに、なんでこんな急にこの子を意識し出してしまったのか分からない。やっぱ今日みたいな猛暑日に外出たから頭がイカれちまったのかな。

「決まった?アイス」
「んーいや…なんでもいいんだけどさ俺は」
「じゃあパピコ一緒に食べない?この期間限定の味の食べて見たくて」
「ん。いーよ」

 レジで支払いを済ませて外に出ると、またむわっとした夏特有の蒸し暑さに全身が包まれる。公園に着く前にルナ達の分のアイスが溶けるんではないかと心配しながら、パピコの封を開けた。パキッと半分に折って誰かと分けて食べるのはいつぶりだろうか。パピコなんて買っても、いつも二人の妹達で半分こしてるから俺は食べることってそうなかった。

「はい、どーぞ」
「ありがとう。後で半額分払うね」
「いーって。アイスくらい奢らせてよ」

 ナマエちゃんの前ではいいところを見せたかった。バイトしてるとは言え、それなりに生活は苦しかったし。新しい服も靴もアクセサリーも服作りに使う材料も色々金かかるしきついけど、でもナマエちゃんにアイスの一つくらい奢ってやりたかった。

 定番の味の方が美味しいかも、と苦笑いしながら食べる彼女の意見には激しく同感した。やっぱり定番化してる商品にはちゃんと理由があるってことだ。でもこの夏、彼女と肩を並べながら食べたこの期間限定のパピコの味は、忘れられない気がした。上手く言葉にできないけど、この時間はすごく心地良くてこの瞬間が終わらなければいいのにと思った。だからか自然と足の進みが遅い。早く戻ってやらねぇとアイス溶けちまうのに、このゆったりと進む歩調を乱したくなかった。

 公園に戻るとコータに遅いとキレられた。いつもならうっせーよこのクソガキとしか思えなかったけど、今日ばかりはわざとゆっくり歩いてしまったから純粋に悪かったと思えた。





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